松江の居酒屋を語る上で外してはならないのが『ふくまるグループ』のお店です。ふくまるの代表であるFさんと、以前ご紹介したAAOの代表Mさんは松江の居酒屋に地元酒蔵の純米酒を広め定着させた立役者と言えるでしょう。

 今でこそ居酒屋の店頭に島根県内の蔵元の純米酒の一升瓶が並べられているのが当たり前の光景になっていますが、昔はそうではありませんでした。せいぜい市内の酒蔵か伏見、灘辺りの有名なブランドの一級酒二級酒(今で言う上撰、佳撰)が殆どだったように思います。それどころか飲み放題で供される日本酒には得体の知れない物が多く、うっかり調子こいて飲んだが最後翌朝は地獄の宿酔に苦しめられるがオチでした。故に日本酒は悪酔いする、二日酔いの元凶というイメージがつきまとい、焼酎ブームの後塵を拝する有様だったように思います。

 そもそも地酒と言うものは、酒蔵がある地元の限られた地域でしか消費されなかったらしいのですが、その隠れた純米酒の旨さに驚いたFさんは県内の蔵元を回って交渉し流通ルートを開拓します。そして『地酒屋 朔屋』をオープンし、各地の純米酒を並べるに到ったそうです。『朔屋』は伊勢宮の通りの中ほどから寺町に入る筋にひっそりと佇む良い意味で枯れた感じのお店です。店を仕切る女将さんはFさんの奥様で笑顔の可愛いおばちゃん?失礼!お姐さまです。この笑顔だけで店内の雰囲気が和むのですから不思議です。

 純米酒押しとは言え料理は和洋中バラエティに富んでいて、日本酒以外でも充分楽しめます。私の大好物は『豚アスパラのおろし玉子』。アスパラを豚肉で巻いたフライを大根おろし入りの生卵に浸して食すのです。カリッとした衣におろし玉子が塩梅よく絡んで日本酒にもビールにも焼酎にも合う逸品です。

 Fさんは朔屋開店から十年近く経った頃に、昔ながらの蕎麦屋で一杯の文化を継承すべく手打ち蕎麦と日本酒のお店『誘酒庵』をオープンされます。同じ寺町ではありますが、分かり難い路地裏にあり隠れ家的な趣のあるお店です。お勧めの手打ち蕎麦は日本酒と相性バツグンで、その他の居酒屋メニューも豊富です。

 ふくまるグループのお店は他に同じ寺町のバー『in-comme』、宍道町の『ふくまる寿司』があります。『in-comme』はバーには珍しく店内が外から丸見えで入りやすい故か、すぐに満席になる人気のお店です。