そもそものキッカケは、子どもたちが相次いで大学進学のため親元を離れたことでした。それ以来、二人暮らしになった根っからの酒好き酔いたんぼ夫婦は、美味しい酒と肴を求めて夜の松江の繁華街を探検し始めたのです。

 夜の街に不慣れな隊員にとって、初めて訪れる居酒屋の扉を開けるのは正に勇気のいる探検でした。入った途端にカウンターに座る常連らしき面々の視線を一斉に浴びて怯んだり、にべもなく「予約でいっぱいです」と断られたり、逆にあまりに閑散としていて不安になったり、時には燃えるような目を爛々と光らせた巨大な虎に襲われたり???あれから十数年、満身創痍の探検隊が夜の松江のジャングルで遭遇したお気に入りのお店やエピソードを紹介したいと思います。

 さて、最初にご案内するのは『まるた屋』さんです。松江日赤病院の南側、京橋川を挟んだ対岸の角にあります。看板には「幼稚園児が描いたお父さんの顔?」みたいなマークが付いていますがどうやらこれはマスターの似顔絵のようです。

 このお店は厨房担当のマスターと、フロアを仕切る看板娘?のS子さんの2人(時にお手伝いさんも)で切り盛りされています。この2人の仲は不明ですが、力関係はほぼ対等かS子さんが若干勝るといったところでしょうか。このまるた屋のみならず、お昼は島根県民会館の近くで『萬天堂』なるお弁当屋さんも展開しているパワフルな方たちです。

 まるた屋の名物は何と言っても『美味しい生』です。自ら美味しいと言って憚らない誇りに満ちた生ビールなのです。それも自称だけではなく、キリンさんからも美味しい生ビールのお店として認定されているという筋金入りの生なのです。サーバーの管理や注ぎ方を極めることで生まれる驚きの一杯を提供してくれます。

 種類も『一番搾り』だけではなく、他の店ではまず見かけない『一番搾りプレミアム』に『ブラウマイスター』と三種あり、こだわりの深さと矜持が伺えます。マスターの料理の腕も確かでビールに良く合う料理は何を食べても美味しくて、運がよければ北海道産の弾けそうなぷちぷちイクラにもありつけます。

 ところで、間違ってもこのお店で「とりあえず生で」などと言ってはいけません。S子さんの地雷が爆発します。とりあえず、恥ずかしがらずに満面の笑顔で「美味しい生!」と言って注文しましょう。