大キレット
2015年8月9日
大キレットとは、槍ヶ岳、南岳と穂高岳をつなぐ稜線の途上にある北アルプス屈指の難所である。前年にここを目指すと決まったときから常に不安を感じていた。自分の体力や技術で大丈夫だろうか、身の丈に合わぬことをしようとしてはいないか、と。同時に、これを経験すれば一区切り付くだろうという気もしていた。より高く、より難しく、どうしてもそんなものを追いかけてしまうのは山登りに限らないが、命あっての物種だ。出発前に仏壇に向かい無事を祈った。もし、母の遺影が動くとか、表情が曇るとか（まさか！）したときは、即座に止めようと思っていた。もちろん何もなかったけれど。
うすうすはそうなるだろうと思ってはいたが、めったにない好天にも恵まれて、無事に予定していたルートを通過し下山することができた。ハードな山行ではあったが、ここまで確かにできたと静かに湧いてくる喜びがあった。
時前後して、同じルートを選択した人が、滑落事故で亡くなった。そんなことは初めてではない。すれ違ったかもしれない人が亡くなったのを知ることは、これまでにも何度かあった。自分が滑落する側であったとしてもちっとも不思議ではない。生死を分ける確たる何かなど存在しない。
槍ヶ岳 3180m 南岳 3033m 大キレット 涸沢岳 3110m 奥穂高岳 3190m
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