手作りのくらし2 ベスト(3)

 端切れベストの背中に描かれた堕天使を見破られ、気落ちしたものの、ちょっと出かけるときにコートの下に着ると、暖かかった。コートを脱いでも、椅子に座っていれば、背中の模様など気づかれはしない。
 一着作ると、創作意欲がまた首をもたげてきた。今度は編み物にしよう。
たまにふらりと入るオフショップで見つけて買っておいた毛糸があった。4玉入ったグレーの毛糸が税込み216円だったのだ。百均の半額だ、買わずにいられようかと、即購入した。その頃はまだ、何かを作ろうという気持ちが沸いていなかったので、袋に入ったまま放っていた。二度目にふらりと入ったときには、8玉入り432円の黒っぽい毛糸を見つけ、それも買っていたが、やはり袋の中に眠ったままだった。そのどちらかを使って編み物に取り掛かろうと思ったのだ。
 以前購入していたかぎ針編みの雑誌を取り出す。特に何か作りたいわけではなく、いろいろな編み方に挑戦してみようと、まず黒っぽい方の毛糸の玉を出してみた。編み始めたら、この毛糸、太さが一定でない。それにふさわしいものを編めばいいのだが、練習用には向かない。編みかけた毛糸を解いて、球にした。もう一方のグレーの毛糸を出してみる。見ると、アルパカの毛と羊の毛の混紡だ。アルパカの毛が暖かいのかどうかは知らないが、アルパカというだけで、心がほっこりとしてきた。これで編んでみよう。雑誌にはいろいろな編み方のベストやセーターがあり、迷ってしまう。4玉でできるとしたらベストだ。その中から、気に入ったのを見つけた。前後4枚ずつのモチーフを作り、それを縫い合わせるものだ。
 早速モチーフ作りにかかる。鎖編みで小さな円を作り、一段ずつ網目記号を確かめながら編んでいく。何とか一枚のモチーフができた。えっ、一玉使ってしまっている。これでは前身ごろしかできないじゃないか。