ニュース日記 729 政権への国民の評価は消費行動にあらわれる
30代フリーター やあ、ジイさん。末期に近づくと支持率の低迷する政権が多かったのに、現内閣は安倍晋三の自民党総裁任期が残り1年半となった今も底堅い支持率を保っている。
年金生活者 日本もアメリカほどでなくても社会の分断が進んだ結果、その壁に阻まれて政権への支持・不支が入れ替わる流動性が低下し、支持層が固定化したのも要因のひとつに数えることができる。
社会の分断は社会のイデオロギー化でもある。政治の領域に限られていたイデオロギーの対立が社会の領域にまで広がり、政治家だけでなく一般の国民もイデオロギーの対立に巻き込まれるようになった。富の稀少性の縮減とともに国家から個人への権力の分散が進み、一般の国民がその権力を使ってイデオロギー上の争いに加わるようになったからだ。政治から遠いところにいるように見える平凡な会社員や主婦が、実はネット上で排外主義的な発言をしていることがあるのもその一例といっていい。
イデオロギーの対立は党派的な対立であり、坊主憎けりゃ袈裟まで憎んでしまう。政権あるいはその反対勢力に対する評価は、いいところもあれば、悪いところもあるといったニュートラルなものではなく、みんないいか、みんな悪いかに分かれる。そればかりか、フェイクニュースやデマをもとに相手を攻撃することさえある。
アメリカでは国民の「総党派化」と呼びたくなるような現象が起きており、トランプを嫌う国民と熱心に支持する国民とに分かれている。彼がどんなに批判されても、支持率が低迷するところまで行かないのは、そうした党派性の壁に助けられているからだ。
30代 日本はそこまで行っていないだろう。
年金 それでも、親安倍と反安倍というゆるやかな党派化が起きている。今までになかった現象であり、それが安倍自民党の選挙での連勝を支えてきた。だが、党派的な対立が強いる緊張に国民はたぶん疲れ始めている。自民党が次の総裁に選ぶのは、少なくとも安倍晋三のような党派性むき出しの人物ではないだろう。
30代 朝日新聞の世論調査(2月15、16日実施)では、安倍晋三の次の自民党総裁に石破茂がふさわしいとする回答が25%と最多となっている(2月18日朝刊)。
年金 考えを異にする相手にすぐけんか腰になる総理大臣に嫌気がさし、対立する相手とも緻密な議論のできそうな石破に期待する国民が増えているのかもしれない。安倍晋三は『美しい国へ』(2006年)という著書で「初当選して以来、わたしは、つねに『闘う政治家』でありたいと願っている」と書いている。彼がけんか腰になりやすいのは、批判に過敏な性格と「闘う政治家」願望によるものと推察される。
政権に復帰してからの彼は国会や街頭で民主党政権批判を繰り返し、「闘う政治家」ぶりを見せつけた。民主党にナメられ裏切られた、と思っていた多くの国民はそれに惹きつけられ、「安倍一強」を生み出す諸要因のひとつになったと考えることができる。
だが、けんかも過ぎると、敵に目を奪われるあまり、国民が見えなくなる。それを国民は察知し、自分たちはナメられているのかと感じ始める。
30代 共同通信の世論調査(2月15、16日)では内閣支持率が41.0%と、1月の前回調査から8.3ポイント下落している。
年金 安倍政権への評価の低下を示す数字がもうひとつある。2019年10~12月期のGDP速報値は年率換算で6.3%減と、5四半期ぶりのマイナス成長となった。
政権に対する国民の評価は現在、選挙結果よりも世論調査と経済指標にあらわれやすくなっている。衆院が小選挙区制になったため、中選挙区時代のように与野党への議席の配分を投票行動によって加減するのが難しくなったからだ。政権にお灸をすえようとして野党に投票すると、自分たちの望んでいない政権交代が起きかねないので、与党に投票する。それが得票率を大幅に上回る議席獲得率となってあらわれる。
30代 GDPの大幅減は、消費税増税前の駆け込み需要の反動が出た結果と報じられている(2月17日日本経済新聞電子版)。
年金 それを言い換えれば、国民は日々の消費行動によって消費税増税にノーの意思表示したということであり、アベノミクスに厳しい評価を下したとみなすことができる。
その背景には消費支出に占める選択的消費が必需的消費を上回る消費の過剰化がある。それによって、国民は消費の抑制を生活に困窮することなく実行できるようになった。財布のひもの締めぐあいによって、消費税あるいはその税率に対する評価をすることが可能になった。それは政権の経済政策の根幹を評価することであり、生活を第一に考える国民から見れば政権そのものを評価することを意味する。
30代 安倍政権はこれまで支持率が下がっても必ず持ち直してきた。
年金 その武器がアベノミクスだった。だが、拡大が予想されている新型コロナウイルスによる感染症の流行は今後、政権への評価を示すふたつの数字――内閣支持率とGDPが回復するのを阻む力として作用し続けるだろう。