手作りのくらし2 金山寺味噌(3)

 積雪を見ることなく、新たな年が明けた。車のタイヤを交換せずに正月を迎えたのは初めてのことだ。
 あと一か月足らずで満百歳となる義母は、家族で迎える恒例の年賀の朝食に、「みんなでやって」とベッドに寝たまま言われた。年末にベッドから落ちて、圧迫骨折していたので、致し方ないことだ。
 親子三人でお節を囲む。男二人はパチンコ初打ちの話で盛り上がる中、出産間近の娘のこと、二人の孫の世話、義母の介護と、私の頭の中では年頭から取り越し苦労が始まっている。
 男どもが出かけ、義母を起こして着替えさせ、食事を持って行ってから、近くの氏神様に初詣に出かけた。願いの最初は長女の無事な出産だ。長男、二男の良縁についてはもうどうでもいいか。あとは、孫たちも含めた家族の健康だ。
 その夜は娘たち一家が年始に訪れ、義母も食卓まで連れてきて、八人でお節を囲んだ。五歳過ぎの寛大も、三歳半の実歩も、煮物を好んで食べる。息子が社会人になって煮物を食べ出したため、このところ一番に無くなるのは煮物の入ったお重だ。
「ちょっと、これ食べてみて」と、冷蔵庫から手作り金山寺味噌を出して、破裂しそうな腹の娘にパックを出す。「おいしい」と娘。あ、しまった。もうすぐ家に転がり込んで来るのだ。気に入られたら、あっという間に無くなってしまう。
 それから二週間後、娘は無事男の子を産んだ。五日目には我が家へ。若い頃は、あまりご飯を食べなかったのに、「今は米だね」と、気が滅入るほどご飯を食べる。金山寺味噌もどんどん減っていく。私は孫たちを寝せないといけないので、寝酒などできはしない。楽しみにしていた金山寺味噌は、酒の肴になる前に無くなり、次のを仕込まねばならなくなった。