続人生の踊り場 タイムマシン
最近、芸能人の不倫報道がまるで国家の一大事みたようにワイドショーで垂れ流されています。
テレビの前の暇人には何の関わりも無いことなのですが、当の本人たちは騒動になっていることを受けて『全ては私の責任です』とか『私の軽率な行動を真摯に反省します』だのといった間抜けなコメントを発表して恥の上塗りをしてしまう羽目に陥ります。あまつさえ、芸能関係の仕事は当面ご破算となり、毎日のようにワイドショーのネタにされ、ネットでは見ず知らぬ輩からあれこれ叩かれます。そんなの放っておけばいいのに、などと思ったりもしますが詮無いことです。元はと言えば自らが蒔いた種、その張本人が酷い目に会うのは自業自得としても、本当に気の毒なのは家族でしょう。
大きな声では言えませんが、実は私、小学生のころ不倫騒動に巻き込まれたことがあります。当時、母が洋裁関係の内職仕事をしていたのですが、その材料を持ってくる業者の男とできてしまったのです。私が小学校から帰る時分にその人が来ていることが何度かあったのですが、子供の目線からは内職のおじさんというだけで特に何も感じることはありませんでした。きっと大人が見ていたら、何やら怪しい雰囲気はあったに違いありませんが。
後で考えると、そう言えばと思い当たる出来事がありました。その日は確か学校が土曜日の半ドンで、昼下がりのことだったように記憶しています。父は仕事で不在です。いつものように、庭に面した縁側のアルミサッシを開けて業者の人がやってきました。母はその窓際で内職仕事をしていたのです。
私は母が何となく機嫌が良いことを察して、新しいシャープペンシルが欲しいとダメ元でおねだりをしました。すると驚いたことに母は二つ返事で買っておいでとお金をくれたのです。私は何の迷いもなく、喜び勇んで歩いて五分ほどかかる文具屋さんに向かいました。店内を少し物色してからお目当てのものを買って帰って十五分は経っていました。果たしてその間、二人は何をしていたのでしょうか。今、もしタイムマシンがあって一度だけ使えるとしたら、その疑惑の十五分間をこっそり覗いて見たい気がしてなりません。
その数ヵ月後、母は私達の前から姿を消し、二度と帰ってきませんでした。