老い老いに 66

 夕焼け通信14年目、私は「どうなってる脳?」のタイトルで連載を始めた。娘が作業療法士になるための勉強中に口にした「左半側空間無視」という言葉がずっと頭に残っていた。右側の脳に損傷を受けると、左側にあるものが見えているのに認識できないのだという。例えばトレーにある物を描いた場合、左側が空白になるそうだ。視覚的には問題ないのに見えないってどういうこと?と不思議でならなかった。夕焼け通信を始めることになった最初の頃に書いたのが「おばの話」。出雲に帰ってから一緒に暮らすようになった伯母は髄膜炎により半身の麻痺と知的障害が残った。普段は穏やかで、歌謡曲などを口ずさむ伯母が、何がきっかけなのか突然豹変し大声で喚き出すのが不可解であった。学生時代には合気道の稽古中に頭を打ち、「あいうえお」から学びなおしをした後輩がいた。長男の友だちは交通事故で五日間意識不明で、意識が戻ってからは赤ん坊から成長していく過程を経て回復していった。その他にも、内地留学の際に訪問した養護学校や施設で様々な病気や事故による後遺症を抱えた子どもたちに会ったこと、担任した子どもたちのことが頭の中に浮かんできて、脳の働きについて考えることが次から次へと沸いてきた。結局は1年間連載を続けることになった。

 編集長は、以前から続いていた「ど素人山行日記」に加えて「どきどきドキュメンタリー日記」の連載もしている。奥出雲の妙厳寺で月1回の上映会を開くというもので、第1回の亀井文夫監督の『戦ふ兵隊』から始まり、モーガン・スパーロック監督の『スーパーサイズ・ミー』、原一男監督の『ゆきゆきて、神軍』、大島渚監督の『日本の夜と霧』などが続き、9月末には森達也監督を招いている。オウム真理教についてのドキュメンタリー映画『A』『A2』などを撮った監督を呼ぶなんて。編集長の行動力には改めて驚いてしまう。さらに、森監督からあれこれドキュメンタリーのビデオを送ってもらっている。どれほどの人たらしなのだろう。恥ずかしながら、私はドキュメンタリー映画には疎い。観たのは、マイケル・ムーア監督の『華氏911』くらいか。こうして編集長の記事を読み返すと、どれも観てみたいなと思ってしまう。