ニュース日記 998 資本主義の未来

30代フリーター 柯隆という中国出身のエコノミストが、中国経済は2026年も低迷を脱するのが難しく、その理由は習政権が経済も外交も社会の統制もうまくいっていると思い込んでいて、思い切った政策転換をしそうにないことにある、とユーチューブで語っていた。

年金生活者 なぜうまくいっていると思い込んでいるんだ。

30代 経済について柯があげているのは、新たな5か年計画でAI、半導体、宇宙開発、バイオなど最先端の研究開発を立ち上げていくので、それが中国経済を力強く牽引していくと政権が考えていることだ。

外交については、トランプによる高関税が大幅に引き下げられたうえ、彼の北京訪問、さらに習のワシントン訪問が決まっていることをあげていた。

そして現在の中国社会は失業者の増大などで不安定化しているが、世界最先端の監視システムを持っているので、国民の反抗はそれで抑えられると政権側は考えていると柯は見る。

年金 そういう国家は昔の西欧の絶対王政国家に似ている。経済についていえば、中国が進める最先端の研究開発は、絶対王政下で進んだ遠隔地貿易、植民地貿易のための航路開拓に相当する。中国がトランプの高関税をはね返すことができたのは、レアアースの独占状態のほかに、格段に増強された軍事力があったからで、これも強力な常備軍を駆使する絶対王政の力による外交に似ている。さらに国民に対する監視、抑圧は、警察組織を地方にまで展開して反体制的な動きを抑えた絶対王政と変わりがない。

 絶対王政は、勃興する商業資本主義をあと押しする重商主義政策をとり、そのための航路開拓を軍事力によって推し進めた。それは資本主義に必須の世界市場の形成に寄与し、のちの産業資本主義の興隆の基盤となった。そしてさらにそれを基盤に第3次産業を牽引車とするポスト産業資本主義がグローバルな発展を遂げた。

 現在の世界では、商業資本主義→産業資本主義→ポスト産業資本主義というこれまでの段階の推移が形を変えて繰り返されようとしているように見える。そのプロセスの高次のバージョンが始まったと言ってもいい。長期的に物事を考える中国人のDNAを共産党政権も受け継いでおり、習政権はなかば無意識のうちに、商業資本主義の新バージョンが始まったことを理解していると推察される。

 だとしたら、目先の経済の低迷などたいした問題ではない。それで国民が苦しんでも、力で抑えつけて我慢させればいい。重要なのは未来へ向けて偉大な中国を築くことだ。習政権の思考パターンはそうなる。

30代 習らはそこまで先を見通して国家を運営しているのだろうか。仮にそうだとしても、そんな人柱を立てるようなやり方は容認できない。

年金 その通りだが、資本主義はそういうことにはお構いなしに発展してきたし、これからもそうだろう。

 資本主義を支える最重要なインフラは交通網だ。大量の商品の交換によって成り立つ資本主義は大量の輸送が欠かせないからだ。商業資本主義の時代には、植民地貿易、遠隔地貿易のための航路の開拓が進み、海上の交通網が発達した。次の産業資本主義の段階では、陸と空の交通網が広がった。ポスト産業資本主義の段階に至って、インターネットが情報を運搬する交通網として形成された。

 航路の開拓は、大洋という未知の空間に新たな自由を確保する企てだった。陸と空の交通網の構築は、既知の空間に新たな自由を求めて行われた。そしてインターネットの発達は、サイバー空間という、それまで存在しなかった空間をつくり、そこに新たな自由を創出することを意味した。

 AIの開発は、商業資本主義時代の航路の開拓に似ている。AIの発達がどんな変化を人間とその社会にもたらすか明瞭でない今の状態は、行く手にどんな危険が待ち受けているかわからない広大な海を進むのと同様だ。いずれも開発に国家のあと押しを必須としている点も似かよっている。

 そう理解すると、AIの産業インフラ化は、かつての商業資本主義が形を変えて復活しつつあることの兆候ととらえることができ、さらに言えば、商業資本主義→産業資本主義→ポスト産業資本主義というこれまでの段階の移行の反復が、あるいはその新たなバージョンが始まったという見方が成り立つ。

30代 それを具体的にイメージできるのか。

年金 新たなバージョンを仮に商業資本主義2.0→産業資本主義2.0→ポスト産業資本主義2.0と呼んで、それぞれの段階で新たに形成されるインフラを予測すると、商業資本主義2.0ではすでに大方が認めているAIであり、産業資本主義2.0では自動生産、自動輸送のシステムが考えられる。前者が未知の空間に自由を求めるものであるのに対し、後者は既知の空間に自由を求めるものだ。

 しかし、ポスト産業資本主義2.0のインフラは私には具体的にイメージすることができない。インターネットの場合と同様に、新たな自由の可能性の空間が形成されることになるはずだが、量子コンピューターがそれに寄与するだろうということくらいしか言えない。