ニュース日記 990 「初の女性首相」のインパクト

30代フリーター 朝日新聞の世論調査で、高市早苗内閣の支持率は68%と、発足直後としては2001年の小泉純一郎内閣以降3番目の高さとなった。リベラル系のマスメディアの世論調査では、保守派の首相や保守的な政策への支持率が低めに出る傾向がある。それを突き破っての高支持率は、「初の女性首相」のインパクトの大きさを物語っている。

年金生活者 リベラル系のメディアの世論調査で、保守派の首相や保守的な政策への支持率が低めになり、保守系メディアの調査ではその逆になるのは、保守的な有権者はリベラル系のメディアに対し、またリベラルな有権者は保守系メディアに対し、それぞれ反発心を抱いているので、世論調査で回答を求められたとき、拒むことが多いからだ。

 それを考えると、68%の支持率が半端ではないことがわかる。保守系メディアの読売新聞の調査の71%にわずか3ポイント差で迫る高さが示しているのは、多くのリベラルな有権者が保守的な高市内閣を支持すると答えたということだ。女性の首相の誕生を「よかった」とする回答が85%を占めたことにもそれがあらわれている。

 「初の女性首相」の誕生が高く評価された最大の理由のひとつは、その首相が保守派の政治家だということにある。もし「初の女性首相」がリベラルな政治家だったら、高い支持率を得たとしても、高市には及ばなかっただろう。ジェンダー平等を重視するリベラル派の政治家の場合、首相候補に手をあげるときも必ず「女性の代表として」とか「女性の地位向上のために」といった理由づけをするはずだ。それで首相になった場合、女性ゆえの「ハンディ」付きでその地位を得たという評価が絶えずつきまとうことになる。そのぶん国民の評価は下がらざるを得ない。

30代 「ハンディ」はジェンダー平等を目指す過渡的な段階では必要かつ有効なことではないか。

年金 そうであっても、それは究極のジェンダー平等ではない。「ハンディ」を取り去ればその地位はたちまち危うくなる恐れがあることを国民は印象付けられるからだ。それは女性たちの新たな挑戦にブレーキをかけかねない。

 高市の首相就任はそんな懸念をほとんど呼び起こさない。リベラル派ほどジェンダー平等に積極的でない保守派は「女性の代表として」とか「女性の地位向上のために」といったことを主要な理由として高市を推したのではない。買ったのは彼女の右寄りのイデオロギーであり、権力への意志だ。つまり女性ゆえの「ハンディ」を付けていない。

 このことは多くの女性を安心させるだろう。「女性初」に挑戦しても、そしてそれを達成しても、「女性枠」を使ったからなどと思われる心配はほとんどないからだ。

 だから、リベラル派の女性政治家は保守派の女性政治家にくらべて、国民の支持を得るのに困難がつきまとうということ、したがって、政権のトップになる機会を得にくいということになる。G7各国で、女性で初めて政権トップの座をつかんだのはいずれも保守政治家であることがそれを実証している。英国のマーガレット・サッチャー(保守党)、カナダのキム・キャンベル(進歩保守党=保守系)、ドイツのアンゲラ・メルケル(キリスト教民主同盟=中道右派)、イタリアのジョルジャ・メローニ(イタリアの同胞=右派)、そして日本の高市早苗と、濃淡の差はあれ、5人とも保守派に属する。それと対照的に、アメリカの大統領選では、リベラル派のヒラリー・クリントン、カマラ・ハリスがいずれも「ガラスの天井」を破れなかった。

30代 高市の所信表明演説を上久保誠人という政治学者が「これでもかというくらい政策がてんこ盛り」と評していた(10月25日朝日新聞朝刊)。だが、そのわりには貧しい印象をぬぐえないのは、安倍政治のコピーだからだろう。とりわけ、デフレ時の政策だったアベノミクスを、インフレになった今も「責任ある積極財政」の名のもとに引き継いでいるのは、政治家としての幅の狭さを感じさせる。

年金 その狭さは、高市の政治の師匠ないし後ろ盾がほとんど安倍晋三ひとりだったことに由来している。そのせいで、安倍政治からの逸脱は自らの命取りになりかねないという警戒心が彼女を縛り、政策の転換が必要なときにもできなくしている。

 デフレからの脱却が目的だったアベノミクスはインフレになった現在、この政策によって積みあがった膨大な政府債務のせいで、物価の抑制のための利上げが難しいという負の遺産となっている。それでもなお高市がそれを手離せないでいるのは「安倍ひと筋」が影響している。

 その点、高市と対照的なのが「初の女性都知事」になった小池百合子だ。彼女は政治の師匠ないし後ろ盾を細川護熙、小沢一郎、小泉純一郎、安倍晋三と取り替えてきた。そして都知事になると、小池カラーを出した政策を打ち出す一方、自らが師匠ないし後ろ盾となって「都民ファーストの会」をつくった。

 そんな自在さは高市にはない。彼女を権力の頂点に押し上げた後ろ盾は彼女のつまずきの石にもなるかもしれない。