老い老いに 54
少し遡ることになる。500号に達する年の春、最後の赴任地になる学校へ転勤となった私は、初めて弱視学級を受け持つことになった。かつて担任して気がかりのままだった子たちのことを引きずり、3番目の子どもをお腹に抱えた身で特別支援教育の方に進むことを決意した。以来知的障がい児学級、情緒障がい児学級などを担任してきたが、新設の弱視学級とは。新1年生として入って来る子は点字使用になるのだという。内地留学で少しだけかじりはしたものの、点字に関してはほぼ初心者だ。何をどうしたらよいか分からず、盲学校に連絡すると、その子を就学前の相談教室で担当した方は、内地留学を通じて関わった方だった。聞くと、まだ点字学習の前々段階であるとのこと。それで、その先生に相談をしながらその子と共に点字を学ぶことになった。
視覚に障がいがあるといっても人によって様々だ。全盲の場合、方向や位置がとても重要になる。「3時の方向」など、時計に見立てた位置で知らせる場面などを見たことはないだろうか。まずは前、後ろ、右、左、斜め右などの方向を、ゲームなどを取り入れながら徹底的にやった。点字に入る前は、縦3段、横2列の6点の位置を覚えるために、ロッカーなどを使って位置関係を体感できるようにした。そして、いよいよ指の先でとなるのだが…。点字というのは指の先で読むくらいだからとにかく小さい。いきなりでは無理だと思い、名刺くらいの大きさの道具を作った。バルサ材を2枚貼り合わせて分厚くし、そこに6つの凹を作る。そして凹に球形の頭がついた画びょうを挿すのだ。左上の穴に一つだけ画びょうを嵌めると「あ」、左列上二つで「い」というように。これに慣れてくると、名刺の半分くらいの大きさの厚紙に木工用ボンドを付けて乾かして凸にし、左上凸1個のカードは「あ」、左列上凸2個のカードは「い」というふうに。
そういうことから始め、教える方も学ぶ方も手探りしながら点字を覚えていった。教師生活最後の4年間、点字だけでなく、白杖の使い方、視覚に障がいを抱えることによる困難などを学んだ。それらを無駄にしたくなくて退職後すぐに点訳ボランティア養成講座を受講した。以来20年近く、本を点訳したり、視覚障がいのある方の手引きをしたりして今日に至っている。