手作りのくらし2  干し柿

 猛暑も、お盆の帰省客を急がせた台風が去ると一旦終息し、ぶり返しにうんざりさせられたものの、彼岸を過ぎると秋の風が吹き出した。
 強い日差しで焼けるのではないか、台風で落ちるのではないかと思っていた出雲の家の庭の柿は、多少落ちたものの、何年ぶりかでたわわに実っている。
 記憶にある田舎の家の庭は、築地松に囲まれ、柿や杏などの果樹が植わっていた。この柿の木は、祖母が若かった頃からあったものだから、百年は過ぎる老木だ。二十年以上前、大型台風が出雲地方を直撃し、庭に植わった杉の大木が傾ぎ、家の屋根にかかろうとしていたので、庭師さんに頼んで切ってもらった。その時、杉を伐採するのに柿の木が邪魔になるからと、かなりの枝を落とされ、以後十年くらい全く実が生らなくなっていた。老木だからこのまま朽ちるのではないかと思っていたら、十年ほど前からまた生り出した。数年前に二~三百くらい生ったことがあるが、今年はそれ以上に実が付いているように見える。
 今は甘すぎる干し柿を好んでは食べないが、中学校に入るのを機に田舎に帰ってきた私は、秋祭りが過ぎると祖母が作ってくれる干し柿が大好物だった。まだ生乾きのを、吊るした藁縄から一つずつもぎって食べたものだ。
 それほどの干し柿好きだったので、母は県外に出た私に、寒風が吹き出す頃になると亡くなった祖母に替わって干した柿を送ってくれた。ある年は、届いた荷を開け、缶の蓋を取ると、ぷーんといい香りがする。缶の底を見ると、ドロッとした液体が溜まっている。生乾きの柿が、缶の中で発酵してお酒になっていたのだ。そのどろどろの汁のおいしかったこと。
 この老いた柿の木にはさまざまな思い出があるのだが、今年新たな思い出となるページが書き込まれることになる。