ニュース日記 966 希望のない国

30代フリーター 朝日新聞の世論調査(4月19、20日実施)では、消費税率を「一時的にでも引き下げるほうがよい」が59%で、「いまのまま維持するほうがよい」の36%を上回っている。他方で、引き下げることで社会保障に悪い影響が出る不安を「感じる」は「大いに」と「ある程度」を合わせて60%で、引き下げ賛成と同じくらいある。

年金生活者 自らの望む政策が将来への不安を生むという矛盾が、今の社会に希望を見いだせない要因のひとつとなっている。

 先日の朝日新聞は「『減税』一色 雪崩打つ各党」の見出しで、与党の公明党と各野党が夏の参院選に向けて消費税減税を公約化していることを報じていた(4月26日朝刊)。自民党内からも減税を求める声が出ているとも。

 だが、消費税の引き下げは世論調査結果にもあらわれているように社会保障の水準低下を招く恐れがある。それだけではない。財源の裏付けがないまま大型減税政策を打ち出し、金利の急騰と通貨の急落を招いた2022年の英国のような例もある。

 経済政策がこうしたジレンマに陥るのは、高度経済成長が遠い過去のものとなり、分け合うパイの大幅な拡大が見込めなくなった先進国に共通の現象だ。それが人びとの将来への希望を奪っている。

30代 希望の度合いは国によって違う。日本財団が去年2月、日本・アメリカ・イギリス・中国・韓国・インドの17~19歳の若者(各1000人)を対象に実施した意識調査によると、自国の将来が「良くなる」と答えた割合は、中国85・0%、インド78・3%、韓国41・4%、アメリカ26・3%、イギリス24・6%、日本15・3%だった。

年金 行き着くところまで行き着いて目標を見いだせなくなった先進国の若者に比べると、先進国に追いつき追い越すことを目標としている新興国の中国やインドの若者ははるかに希望を持ちやすい環境にいることがわかる。それだけでなく、中国とインドはアメリカに代わる次の覇権国家を狙えるポジションにあり、それが、若者たちの希望を増幅していると考えることができる。

30代 中国が覇権国家になる可能性はどの程度あるんだ。

年金 トランプ関税が自由貿易を脅かしているさなかにワシントンで開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議で、中国人民銀行の総裁は、自由貿易ルールと多国間貿易体制を断固として支持すると表明した、と報じられている(4月24日ロイター)。これまでも中国は繰り返し自由貿易体制の堅持を強調し、その守り手を自任してきた。アメリカに代わる次の覇権国家は中国だというメッセージと受け取る国々は多いだろう。

 自由貿易体制は、抜きん出た経済力と軍事力を持つ覇権国家が存在して成り立つ。今その座からずり落ちつつあるアメリカは、自由貿易体制を守り続ける力を失い、逆にこの体制を重荷に感じるようになった。それがトランプを高関税による保護貿易主義に走らせる要因のひとつとなっている。

 覇権国家は古代以来の「世界帝国」の現代版だ。その不在は次の「世界帝国」の座を狙う大国と前の「世界帝国」とのせめぎ合いを引き起こす。それが「帝国主義」であり、米中の対立は無血の「帝国主義戦争」にほかならない。

 すでに「地域帝国」にのし上がった中国がこの戦争に勝ち抜いて、「世界帝国」になるかどうかは見通すことができない。だが、習近平がそれを狙って長期戦を覚悟していることは間違いないだろう。そしてその成否を分ける決定的なステップとして台湾統一を考えているはずだ。「帝国」には服属国の存在が必須であり、台湾をそれに組み入れることができなければ、他の服属国や服属国候補の国に示しがつかない、と習は考えていると推察される。

30代 トランプの「革命」にしろ、兵庫県知事の斎藤元彦の「改革」にしろ、「破壊」のあとの「創造」のビジョンが見えてこないのに、多くの有権者が彼らを支持するのは、それほど未来への希望を失い、とりあえずこの現状を壊してほしいという切迫した願望があるからだ。ポスト産業資本主義の限界があらわになっているのに、それに代わる資本主義の次の段階が見えてこないことが世界史的な背景としてある。先週、ジイさんそう言っていた。

年金 資本主義の次の段階は目には見えてこないが、想像することはできる。たとえば可能性のひとつとして次のような想定が成り立つ。

 AIを基盤とした技術が将来、飛躍的に進歩すると、ほとんどのモノやサービスは自動生産されるようになり、人間は働く必要がなくなる。その結果、収入の道は断たれるが、自動生産されるモノやサービスは限界費用がゼロになるので、無料で手にすることができる。貨幣は消滅し、資本主義は終焉を迎えるだろう。

 しかし、こんな未来像をいくら描いてみても、今の現実とかけ離れ過ぎていて、人びとが将来に希望を持つことはないだろう。それどころか、仕事がなくなり、生きがいを失い、退屈にさいなまれるディストピアを思い浮かべるかもしれない。現在は深い谷間のような過渡期にあるというほかない。