人生の誰彼 20 原作事件

 

 先だって、漫画のテレビドラマ化を巡ってとても痛ましい事故が起きてしまいました。結果的に一人の漫画家が自ら命を絶ってしまったという事実は真に深刻です。ただ、テレビを見ていた妻は「とても面白くて好きなドラマだった」と言います。その裏で作者の葛藤があったことなど誰も知る由などなかったでしょう。

 こういった漫画関連の揉め事で(ドラマ化作品ではなく別件の話になりますが)私が特に記憶しているのが『キャンディキャンディ事件』と『宇宙戦艦ヤマト事件』です。両者とも平成10年前後に発生し、その概要は分かり易く言ってしまえば原作と著作権を巡るトラブルで、訴訟にまで発展しました。

『キャンディ・キャンディ(正確には・がハートマーク)』は水木杏子原作、いがらしゆみこ作画による少女漫画でアニメ化もされ大ヒットした作品です。そのトラブルの発端は、いがらしゆみこ氏が水木杏子氏の了解を得ることなく『キャンディ・キャンディ』のイラストを使った関連商品を制作販売したことでした。

 漫画家のいがらし氏にすれば「キャラクターデザインを考えて絵を描いたのは自分だからその絵柄をどう使おうと私の勝手でしょ」みたいな言い分でしょうが、抗議を無視された水木氏はいがらし氏を訴えます。実際はかなり複雑なのですが、要は漫画のキャラデザインに原作者の権利は存在するのかという話で最高裁までもつれ込んだ末、水木氏が全面勝訴する結果となりました。ですが判決後も両者は和解することなく『キャンディ・キャンディ』関連の商品は絶版のままです。

『宇宙戦艦ヤマト』は1974年に制作放送された原作漫画無しのテレビオリジナルアニメ作品です。そのトラブルとは、このアニメの制作に携わった漫画家の松本零士氏が、原案者でプロデューサーの西崎義展氏を相手取り「宇宙戦艦ヤマトの原作者は私だ」と言う著作権を巡っての訴訟を起こしたことでした。ここで面妖なのは、元々制作スタッフの一人として自認していた筈の松本氏が、何故に放送後20年以上も経ってから的外れの著作権争いなどを始めたのか?です。

 このアニメは多くの人達が関わったオリジナル作品なので、当然の事ながら裁判の結果松本氏の主張は退けられ、あまつさえその後制作された『宇宙戦艦ヤマト』の映像作品に松本零士の名がクレジットされることは無かったのです。

 どちらの先生も欲の皮が突っ張ってたんでしょうか、残念でなりません。