空き家 22 生家の思い出⑨

 

 これまでも里帰りした際に伯母は祖母と一緒にいたので他人という意識はなかった。ただ、一つ家の下で暮らすとなると、身内として感じることが多々出て来た。

 伯母が家でする仕事は、竈の火の番、消し炭を壺に収めること、畑での祖母の手伝い、庭の草取り、こで掻きなどだ。今の暮らしではそれらの仕事自体、無くなっているものがほとんどだが。

 人が大好きな伯母で、近所の人が来てお茶事が始まると、必ずその中に加わった。会話が始まると、うん、うんと頷き、おかしいことがあると歯の欠けた口を大きく開けて笑う。たまに横から口を挟むこともあった。話好きなので、祖母が居ない時に客が来ると、玄関に出て応対した。話していくうちに相手はどうも話が嚙み合わないと気づくのだが、うっかり約束事などをしてしまうと困ったことになる。そういうことが重なって、祖母は、自分の居ない時には表に出ないようにと言っていた。けれども、伯母はついつい客の声に引きずられて奥から出てくるのだ。

 家のことを手伝うし、食事でも、皿に取り分けられた物以外に自分から手を出すようなことはなく、さほど手がかかる伯母ではなかった。ただ、トイレの始末が不十分で、工場の人も使うトイレは使わないようにし、裏のこでを積んだ小屋の横に作った伯母専用のトイレで用を足していた。

 困ったのが時々起こる癇癪だ。「木の芽立ちだけんなあ」などと祖母が言っていたので、春先が多かったのかもしれない。普段は大人しく笑顔でいることが多いだけに、その豹変ぶりにはじめはおっかなびっくりだった。とげとげしい顔になり、口をわなわなさせて怒鳴り散らすのだ。一度、持っていた箸箱で祖母の頭を叩いたことがあり、咄嗟に伯母を抑えにかかった。細い腕ながら、かなりの力で踏ん張られた。茨城の叔母が言っていたことがある。「姉やん(伯母のこと)に抑え込まれたことがあるよ。まだ若くて力も強かったからね」

 癇癪が収まると、バツが悪そうな風をしばらく続け、そのうち何もなかったようにいつもの伯母になるのだった。