空き家 8 蘇る家⑤

 

 娘が独身だった頃、たまに昼食を一緒にと誘ってくれ、いろいろなお店に連れて行ってもらった。その中の一つに、古民家を改装したカフェがある。

 山間にあるカフェで、駐車場からの砂利道を、残る雪で滑らないように気を付けながら店を目指した。保育所から高校まで一緒、大学時代に離れていたものの、松江に帰ってからまた頻繁に会っているNさんとそのお母さん、総勢四人で訪れた。築150年の家を改装したという太い柱が支える建物だ。一階の広いスペースの真ん中にでえんと薪ストーブが置かれていた。もう10年以上も前のことで、何を食べたのかなどすっかり忘れてしまったけれど、木に包まれた落ち着いた空間に、薪を焚きつけたストーブから醸し出される暖かな空気は、今も肌の奥に沁み込んだままでいる。

 もう大きいバイクには乗る自信がなくなり、今はスーパーカブで走るだけだけれど、退職したての頃は、2年続けて北海道まで中型バイクに乗って夫とツーリングした。3年目は九州、阿蘇周辺から高千穂まで走った。1年目に出会ったライダーに、ライダーハウスなるものの存在を知らされ、2年目と3年目は専らそこを利用する。値段が格安で、中には一泊1000円で朝食付きなんてところもあったし、部屋に入りきれなければ廊下で雑魚寝という700円の宿もあった。九州で泊まったところは、外見は倉庫のような建物なのに、中に入るとレストラン。奥には宿泊できる小部屋があった。ご主人は世界中を渡り歩いた料理人ということで、中でもビーフストロガノフは絶品だった。

 当時嘱託として働いていた事務所の同僚たちとそんな話をしていたら、「実家をライダーハウスにしたら」と言われた。全国各地からいろいろな人が訪れて、それぞれが体験した話を聞きながら過ごすのもいいかもと思って夫に話すと、「近所迷惑だわ。バイクの音がうるさいし」と一蹴された。

 私の生家、築150年はいかないだろうが、100年は優に越えている。50年前に改装し、その10数年後に空き家になった。人が住まなくなると、だんだん住めない家になっていく。