がらがら橋日記 真夏日

 

 35度を超える真夏日であっても、予定していた草取りは止めるわけにはいかない。こいつだいじょうぶかいなという不安顔の仲介者に、「絶対無理しないでください」「必ず休憩して水分をこまめにとってください」と口酸っぱく言われながら、いざ灼熱の草場に赴かん、とねじり鎌片手に向かう。たいていの場合が、伸び放題の草に「さすがにこれはまずいだろう」と焦りを感じてからの依頼なので、なかなか手強い現場が多い。すくすくと育ったオオアレチノギクなど乾ききった表土をがっちり掴んで容易に抜けてくれないうえ、松江市のペラペラしたゴミ袋ごとき簡単に突き破る。

「いつの間にかこぎゃんことになってしまいまして」利用者も半ばあきれ顔だ。第二次梅雨明けは、より繁茂した草取り明けとなっている。

 中腰で抜いていて腰や膝が痛くなると、手と膝を地面に着いて、草の中に這いつくばるようにして手元の草をブチブチバリバリと抜く。空気を三十五度に上げる日差しは地面をそれ以上にしているので、熱い鍋でも触っているようでゴム手袋の中はすぐに汗で濡れてくるし、顔から噴き出る汗はボタボタと眼鏡を伝って土の中に吸い込まれていく。日差しはまるで圧力があるみたいに背中を押す。

 子どものころ、日雇い労働をしていた叔父が言っていたのをふと思い出した。

「日雇いはいけんわ。罪人みたいな仕事させーけんのお。」

 炎天の下で、川に入ってヘドロを掻き出す仕事だったらしい。なぜこんな仕事をせねばならんのかと身振り手振りで嘆いたのだったが、どんな話も冗談混じりで笑わせる大好きな叔父だったので、時代劇みたく鞭を手にした役人に睨まれながら川底を這う叔父の姿を想像し、ぼくは大笑いしながら聞いたのだった。叔父は笑い転げるぼくを見て、満足そうな笑みを浮かべていた。

 じりじりと焦がす太陽を背中や首筋に感じながら、ぼくはしばらく思い出し笑いに興じたのだけれど、もしかすると、叔父は笑い話にすることで耐えていたのかもしれないなと思った。

 叔父の話を思い出したのは、端から見たら今の自分の姿は苦役に見えるだろうと想像したからだ。でも、実際はそれほど苦しくもつらくもない。いくつか楽しみさえ混じっている。暑さに慣れてきたと感じるのはうれしいものだし、ワークマンの熱中症対策グッズがなかなかで、いい買い物をしたという充実感もある。気がつくと、夏が去年ほど嫌じゃなくなっている。