がらがら橋日記 ハーブ ①

  

 何度か書いたように、業者にも入ってもらって実家の外回りはすっかりかたづけたのだが、何もない殺風景なのも味気ないので、裏庭の一角に小ぶりな花壇をこしらえた。土も石も十分な量があったので、リサイクルでもある。冬の間土作りをし、満を持してこの春を迎えた。

 色とりどりの草花を植えてもよかったのだが、住む者はおらず、ブロック塀越しに隣家のおばあさんが見てくれるだけでは、花も今ひとつ気勢が上がるまいと思い、ハーブをいくつか植えることにした。というのも、スープを作るようになって、レシピにたびたび登場するハーブ類をいちいち購入しないですむのならどんなにいいだろうかと思うようになったからである。スーパーにありはするが、都度適量というわけにもいかず、安くもない。

 それまでハーブには何の知識も興味もなかった。高尾小学校で子ども落語をやっていたとき、3年生の児童が高座名を「はあぶ」にしたいと言った。ぼくは、何だそれ、とポカンとなった。好奇心の強い子で、地図、漢字、メダカなどなど、常に何かしら夢中であり、しゃべるとそのことばかりになる子である。たまたま名付けの時に凝っていたのがハーブだった。どんなハーブをどのように育てているか、そのころ熱く語っていた気がするが、こちらは右から左で、彼にとっては話す甲斐のない担任であった。

 たまたま名付けの直後「脱法ハーブ」が世間を大きく賑わすようになり、ハーブと言うだけで怪しげなイメージがついて回った。ぼくは、はあぶと相談して、

「私は、3年生の若葉亭はあぶと申します。どうしてはあぶと言うかというと、ハーブを作るのが大好きだからです。…脱法ハーブじゃありませんよ。」

というマクラにした。学校教育で扱うにはギリギリの線だったが、それがよかったのかどこでも大受けだった。これは、危険ドラッグなどに名称を変え、脱法ハーブという言葉が耳遠くなるまで使った。地元客などは、何度も耳にしたマクラなのだが、待ってましたと言わんばかりに繰り返し受けた。ハーブにもはあぶにも大変お世話になった。

 はあぶのハーブ好きも長くは続かず、高学年になると「人間は飽きます」と開き直って、正直に名乗るなら「青葉亭(高学年の亭号)荒れ放題」などとうそぶき、やっぱり受けていた。今でははあぶも高校生になり、好奇心も順調に移ろっているだろう。

 不思議というより、世の中そうしたものと思うのだが、ハーブについて何度聞いても馬の耳に念仏だったぼくが今は自分でそれを育てている。

噺のあとで 若葉亭はあぶ