がらがら橋日記 自転車6 立杭(1)

 

 丹波焼の窯元巡りは、篠山の観光を兼ねてできるものと思っていたら、立杭といって市の西端にあることがわかった。とんだリサーチ不足だった。篠山の旅館を出るとき、若女将に、

「自転車で行けますかね、窯元に。」

と聞いたら、ニヤニヤして、

「あっ、朝出られるとき見ましたよ。かっこいい自転車で。行けるんじゃないですか。けっこうアップダウンありますけどね、チャレンジ、チャレンジ。」

 嫌な予感がしたので、車で行くことにした。正解だった。丹波焼というから丹波篠山と近接しているイメージを持ってしまうのだが、武家屋敷にいた女性によれば、立杭焼と言った方がなじみがあるのだそうで、陶工たちの里と言えば丹波篠山にあらず、立杭なのだった。

 立杭に着いてみると、陶芸まつりと染められた幟が国道沿いに延々とはためいていて、思ったよりずっと大きなところだった。国道の両側に五十軒あまりの窯元や関連施設が点在し、それぞれに作陶、展示、販売をしているのだから、一軒一軒見て回ったりなぞすれば、どれほど時間がかかったものかわからない。そんな者たちのために、各窯元の作品を一堂に集めた施設があるのだが、あいにくと定休日だった。そこで品定めをしていざ購入せん、と思っていた当てが外れた。やむを得ず勘で入ったある窯元で不平を言うと、

「私たちも言ってるんですよ。陶芸まつりの期間中くらい開けたらってね。」

と窯元の娘さんが私への同情を込めつつ、笑いながら言った。内輪の不平を正直に言ってくれたのに力を得て、ついでに言ってみる。

「ここに行ったがいいよ、という窯元、こっそり教えてもらえませんか。言いにくいとは思うが…。」

 そうですねえ、としばらく悩んではみせたものの、それほど抵抗も感じないようで、地図を指さし、名前を挙げていく。

「あっ、ここのもかわいいし、ここは、親戚なんです。ここもデザインがいいし、ここも人気だなあ。それからここも親戚です…。」

 いくらでも挙げてくれるので、目的を達したのだかどうだかわからなくなったが、次の客が入ってきたのをきっかけに切り上げた。礼にスープカップを二つ、ささっと選んで購入した。まつりの期間中はじゃんけんに勝ったら二割引です、と言われるまましたら負けた。心構えのない者に対する勝ち方を心得ているようだった。

 最初に名前の挙がった窯元めざし自転車を駆った。