ニュース日記 807 なぜ維新が躍進したのか

 

30代フリーター やあ、ジイさん。衆院選は自民党が絶対安定多数を確保したものの議席を減らし、立憲民主党はそれ以上に後退した。これと対照的に日本維新の会の躍進がきわだった。

年金生活者 与野党を問わずほとんどの政党がバラマキ合戦に参戦し、国のふところが心配されている中で、維新はバラマキに必要な経済成長を強調し、それが支持を集めたと見ることができる。

 バラマキの財源は日銀券を印刷しさえすればいくらでも確保できる。理論上はそれで政府が破産することはあり得ない。しかし、いくらカネをばらまいても、モノやサービスが供給されなければ、そのカネの価値はないに等しい。それは財政インフレと呼ばれ、政府は破産しなくても国民は破産状態に置かれる。

 モノやサービスが十分に供給されるには経済成長が必要だ。しかも、それらのモノやサービスは買いたくなる魅力を備えていなければならない。資本主義の高度化で家計に占める選択的消費の割合が必需的消費のそれと肩を並べるまでにふくらんだ現在、「必要」だけでは経済全体を回すほどの消費は喚起されないからだ。

 魅力ある商品をつくるにはイノベーションが欠かせない。それを動機づける規制緩和が今の日本では不十分であり、既得権益を守ろうとする力がその改革を阻んでいる。だから、経済成長が鈍化し、給料も上がらない。そんな維新の主張が一定の支持を広げていると見ることができる。

30代 どっちにしても政権交代にはほど遠い結果だった。

年金 今回の衆院選は、日本で政権交代が起きにくい理由のひとつをあらわにした。言い換えれば、今の日本の与党と野党第1党は「大きな政府」路線で一致しており、そのぶん政権交代の余地を狭めている。

 アメリカやイギリスでは「大きな政府」路線と「小さな政府」路線の政党がそのときの経済情勢に応じて交互に政権を担ってきた。日本では戦後長いあいだ「小さな政府」の政党が存在せず、保守政党も革新政党もともに「大きな政府」を基本路線としてきた。

 両者の違いは経済政策にはなく、外交・安保政策にあった。自民党と社会党が議席を分け合った55年体制がそれだ。敗戦国の日本が戦勝国のアメリカに逆らうのはほとんど不可能で、日米安保条約に反対し、自衛隊を違憲と主張した社会党は政権を担うことができず、自民党の長期政権が定着した。

30代 それでも1993年の細川連立政権、2009年の民主党政権と、政権交代は起きた。

年金 戦後政治の中に「小さな政府」路線が一定の力を持って登場したことがそのきっかけとなった。小沢一郎の『日本改造計画』は新自由主義的な考えを基調とした著作であり、小沢はその考えのもとに自民党を割って新党をつくり、細川連立政権を成立させた。しかし、「小さな政府」路線は芽吹かないまま、そのあとに成立した自社さ政権によって「大きな政府」路線にあと戻りした。

 「小さな政府」路線がふたたび登場したのは、小泉純一郎がまさかの首相の座を勝ち取ったときだ。彼は「官から民へ」をスローガンに郵政民営化を推し進め、日本に新自由主義を導入した首相として称賛と批判を浴びた。しかし、そのあとの3代の自民党内閣で「小さな政府」路線はしぼんでいく。

 それを部分的に復活させたのが民主党政権だった。「官僚主導から政治主導、国民主導へ」というスローガンはその表現でもある。もともと民主党の経済政策のベースには新自由主義的な考えがあった。「1998年綱領」と呼ばれているこの党の「基本理念」には「経済社会においては市場原理を徹底する」と書かれている。もし伝統的な「大きな政府」路線をとっていたら、2009年の政権交代はなかっただろう。

 ただ、つけ加えておくなら、「1998年綱領」は「あらゆる人々に安心・安全を保障し、公平な機会の均等を保障する、共生社会の実現」も目指すとしており、「大きな政府」路線をまったく排除していたわけではない。もし完全に排除していたらやはり政権を取ることはできなかっただろう。露骨な弱肉強食を日本人が受け入れることは想定しがたいからだ。

30代 今の立憲民主党はいつか政権交代の主役になることができるだろうか

年金 旧民主党系の野党が推す無所属候補が自民党の公認候補を破った参院静岡選挙区の補選は、2009年に民主党政権が誕生したときの構図に似たところがある。最大の類似点は、立憲民主党、国民民主党が共産党と選挙協力をせず、逆に戦いながら、自民党に勝ったことだ。09年に共産党は比例区に集中するとして小選挙区の候補者をしぼったが、それがなくてもこのときの民主党は自民党に勝っただろう。

 このことから言えるのは、野党が政権を奪取できるのは、共産党の助けがなくても自民党を倒せるほどの勢いがあるときだということだ。ただし、それは共産党との選挙協力が無駄だったという意味ではない。今回の衆院選でもし野党共闘がなかったら、立憲はもっと議席を減らしていただろう。それではますます国民に頼りにされなくなり、政権交代は遠のくばかりだ。