ニュース日記 801  コロナが変えた自民党総裁選

 

30代フリーター やあ、ジイさん。新しい自民党総裁にふさわしいのはだれかを問う報道各社の世論調査で河野太郎が群を抜いている。

年金生活者 総裁選の候補者の中で安倍・菅政権と最も距離があると思われているからだろう。

 朝日新聞の世論調査(9月11、12日実施)では、次の首相が安倍晋三や菅義偉の路線を「引き継がない方がよい」が58%で、「引き継ぐ方がよい」の28%の倍以上にのぼっている。安倍・菅政権の前近代的なところが嫌われたと推察される。国会を開きたがらない独裁者的な体質、それと表裏一体のモリカケ・桜に見られる公私混同、相次いだ国民への説明の拒否などがそれを語っている。

 それにくらべれば、河野太郎には欧米的な近代性がある。空気を読まずに物を言うのは合理性を物差しにしているということだ。話をわかりやすくするために理想化した言い方をすれば、それは国会での論戦に快感を覚え(小泉純一郎にはそんなところがあった)、国民に説明する力を自らの政治力と考え、公私の別を明瞭にすることを仕事の土台とする政治家像を思い浮かべさせる。実際の河野太郎はそれとは違うだろうが、それを期待させるほど彼はこれまでの自民党の政治家とは異なるメンタリティーを備えている。

30代 総裁選は岸田派を除く6派閥が自主投票で臨む異例の展開になった。

年金 新型コロナウイルスは菅政権だけでなく、それを支えた自民党も追い詰め、派閥の弱体化を加速した。

菅政権と自民党を追い詰めたのは直接にはコロナそのものではなく、医師会や病院業界をはじめとする医療界であり、それに同調する国民世論だ。政権と与党の持つ権力を「政治権力」と呼べば、それはことコロナに関する限り医療界の持つ「医療権力」の下位に立つことを余儀なくされた。

30代 マスメディアの論調は逆だ。政権が医療の専門家の言うことを聞かないから感染が広がっているというような報じ方をしている。

年金 「医療権力」の強さは、国民の医療への信頼、それも「信仰」と呼んでいいほどの厚い信頼に支えられている。それは、自然法則によって決まる人の生死をあたかも医療が決めるかのような錯覚となってあらわれている。その背景にあるのは人命を何よりも大事と考える現在の社会通念だ。

 その「医療権力」が新しい感染症に遭遇したときに真っ先に考えるのが感染の抑え込みだ。感染の拡大は医療逼迫、医療崩壊を招き、それがやがておのれ自身を危機におとしいれる。それを阻むためにこの権力が選ぶのは、自らの振る舞い方の変更、つまり医療提供体制の拡充ではなく、人びとの行動の制限だ。

 その視野には、行動制限が招く経済の停滞や個人の心身の不調は存在しない。それは医療の領分外のものだからだ。こうした視野の狭さは、未知のウイルスへの恐怖から国民が陥った視野狭窄とシンクロナイズした。

 そんな「医療権力」に「政治権力」はコロナ対策でこれまで押されっぱなしだった。少しでも経済を回そうとGoToトラベルに執心すれば、たちまち専門家と世論の批判を浴び、力を削がれていった。歴代最長を誇った安倍政権が一気に弱体化し、その後継の菅政権も1年で退陣に追い込まれた経緯は、「医療権力」の強さを見せつけた。

30代 それで自民党の派閥も弱体化したというのか。

年金 「政治権力」の弱体化の背景には「医療権力」の強大化のほかに、もうひとつの流れがある。消費の過剰化にともなう国家から個人への権力の分散だ。分散した権力を手にした国民はそれに相応する処遇を求めるようになり、自分たちをないがしろにする「政治権力」を認めなくなった。自民党内の派閥のせめぎ合いは、国民に目を向けず、身内のことしか眼中にないように映る。総裁選で各派閥が相次いで事実上の自主投票を決めたのは、そうした国民の意識を敏感に察知した中堅・若手議員をコントロールできなくなったからだ。

30代 対する野党は、朝日新聞の世論調査で立憲民主党の支持率がわずか5%と、まるで振るわない。

年金 国民民主党に至っては0%だ。かつて民主党政権を担った議員もいる政党とは思えないほど低迷している。最大の理由は「中道保守」路線に純化し、「多様性」が薄いことにある。

 路線の純化は共産党や公明党も同様だが、両党とも同じ調査で3%の支持率を獲得している。共産党は社会主義を掲げるイデオロギー政党で、公明党は創価学会に支えられた宗教政党だ。言ってみればどちらも取り替えのきかない政党なので一定の固い支持層がいる。

 これに対し、「中道保守」は自民党の中に同じような考えの持ち主がいくらでもいる。国民民主党が自民党とは異なる政党として存在する理由は、少なくとも路線の面ではそれほど大きくない。つまり共産党や公明党に比べれば取り替えのききやすい政党ということができる。

 今回の調査でやはり支持率0%となった社民党とれいわ新選組についても国民民主党と同様のことが言える。私たちの国で多数派になるのは「多様性」を備えたハイブリッド政党であることをそれは示している。