ニュース日記 755 「由らしむべし知らしむべからず」政権

30代フリーター やあ、ジイさん。報道各社の世論調査で、菅内閣が歴代内閣の中でも上位の高い支持率を得ている。次の衆院選での自公圧勝、野党惨敗が目に見えるようだ。

年金生活者 それでも、この政権が示す「民は由らしむべし知らしむべからず」の姿勢はいつか国民の批判にさらされる可能性がある。

 各社の内閣支持率は朝日新聞65%▽毎日新聞64%▽日本経済新聞74%で、支持の理由は社によって少しずつ異なっている。朝日新聞は「他よりよさそう」の41%が最も多く、「首相が菅さん」23%、「政策の面」20%と続く。この結果を報じる記事は、安倍内閣の傾向と比べると「他よりよさそう」が少なく、「首相」を理由に挙げる人が多い、と説明している。毎日新聞は「政策に期待が持てそうだから」が35%で最多、日経新聞は「人柄が信頼できる」の46%が最も多かった。

 これらの結果から推定できるのは、新型コロナ対策と連動させながら「縦割り行政・既得権・悪しき前例主義の打破による大胆な規制改革」を掲げる政権の政策を国民の多くが歓迎し、新首相にはその実行力があると評価しているということだ。菅はそれにこたえるように、内閣が発足するとすぐさま各担当閣僚に「縦割り110番」の設置や「デジタル庁」の新設、不妊治療への保険適用といった目標を指示した。

30代 野党は太刀打ちできるのか。

年金 菅政権は役所を標的とした、国民受けする政策によって民を「由らしむ」ことにスタートダッシュで成功したと言える。それと対照的に、「知らしむ」ことはできるだけ避ける構えを見せている。

 朝日新聞の世論調査では、森友・加計学園問題や桜を見る会の問題の解明を進めるべきかとの問いに54%が「進めるべきだ」と答えているが、新政権は前政権と同様に再調査を拒否している。「国民のために働く内閣」を自任する菅は結果さえ出せば、その過程などは「知らしむ」ことをしなくても、国民は納得すると考えているのかもしれない。

 しかし、経済的な自由の拡張で自尊心をふくらませている現在の国民にとって、「大胆な規制改革」を歓迎する気持ちと、「知らしむ」ことを求める気持ちは同根であり、いつまでも政権の姿勢を容認し続けるとは限らない。

30代 国民の批判が高まるとしたらどんなときだろう。

年金 政権の目玉政策のひとつである「行政のデジタル化」には、国民が自らの個人情報を政府に預けることが不可欠だ。それに国民が納得するには行政の徹底した情報公開が必須の条件となる。だが、安倍政権の継承を掲げる菅政権は前政権の隠蔽体質も引き継ぐことになるので、デジタル化はつまずきのもとになる可能性がある。

 行政のデジタル化について朝日新聞は「安倍政権でも何度も成長戦略に盛り込まれながら、ほとんど進まなかった経緯がある」と報じている。実現には「マイナンバーカードの活用拡大」が必要だが、それには「政府に情報を一元管理されることに対する国民の抵抗感」があると指摘している(9月15日朝刊)。

 政府は現在、行政手続きを効率化するため、マイナンバーカードと本人の預貯金口座の連結を義務化して、生活保護や児童手当など各種給付の円滑化をはかる一方、同カードと運転免許証、外国人在留カード、国家資格証とも一体化する法案を準備している、と報じられている(8月27日時事ドットコムニュース)。実現すれば、国民は各種の個人情報を政府にさらさざるを得なくなる。それに対する警戒感、抵抗感の強さは、カードの普及率が2割にとどまっていることが示している。

30代 国は個人情報を個人の監視や追跡に使うのではないか。コロナ対応のずさんさを見れば、情報が流出するのも心配だ。まして、首相やその身内の不祥事を隠すために公文書の改竄までした政府のことだ。情報を預けてしまうと、何をするかわかったものではない。そんな懸念を多くの国民はぬぐえないに違いない。

年金 それを無視してデジタル化を進める方法として、中国のように独裁によって国民を強制するやり方がある。それはアメリカを脅かすほどの成果を挙げているが、日本ではSF映画のストーリーにすることすら難しい。

 残る方法は「何をするかわからない」政府を「何をするかわかる」政府にすることしかない。それには徹底した情報公開が必要だ。文書を黒塗りだらけにして開示するなど論外だ。だが、不徹底な公開の現状をあらためるだけでは、国民の懸念は消えないだろう。森友学園問題に端を発した財務省の公文書改竄や、加計学園、桜を見る会の問題を再調査して、うやむやなままの真相を明らかにすることが最低限必要だ。

 その必要はないとする菅政権の方針は自らの目玉政策を妨げる要因になりかねない。今のままでは、国民の多数は政権を支持しても、この政策にはノーを突きつける可能性がある。

30代 ジイさん、行政のデジタル化が小泉政権の郵政民営化のような人気政策になるかもしれないと言ってたぞ。

年金 菅政権が方針を変えない限り、その考えはあらためなければならない。