がらがら橋日記 図書館再開

 図書館が再開した週末早速向かった。休館になる前に借りた本数冊、およそ二月も借りっぱなしだったのを返さなければならない。休館と聞いたときは、長編小説を読み急がなくてよくなったと喜んだものだが、それが仇となって結局最初の数ページをめくっただけで埃をかぶってしまった。手に入れた途端魅力を失ったあれこれと同類にしてしまったのだが、そんなつまらぬことで貴重な読書経験を逸してしまったかもしれない。
 定期の図書館行きが叶わなくなると、ぼくの足は本屋に向かうようになった。蔵書の大処分を決行して以来、なるべく本を買わないようにしていたが、新型コロナウイルスにその禁を解かれてしまった。あっと言う間にこれまで抑制を保っていた蔵書スペースをあふれ出す文庫たち。でも、動線が異なれば出会う本も異なる。図書館では目につかなかった本を見つけ、自分の読書の傾向にも変化が生まれた。読まずに返すことになってしまった本たちの代わりに出合えた本で新しい経験が得られたのならそれもまたよし、だ。
 ついでに、にわか購入派になったことが作用したらしく、住居に関しては賃貸派を自認していたのに、新築しようか、中古を探そうか、マンションは、など考えるようになり、これまで見向きもしなかった雑誌や間取りの概説書などを読み漁る。そうなるとついつい暴走してしまうのが自分の悪癖で、実家で一人暮らしをしている老父に家の建て替えを考えているのだが、と提案する。常日頃お前の好きにすればいい、と言っている父が、どう見ても捨てる対象にならざるを得ない物たちへの愛着を語ったりする。てっきり賛成してくれるものと思っていたので、急に足払いを食らってすっ転んだようなものだ。カッカと熱くなって視野狭窄に陥っている自分に気づく。こうなるとさっさと冷めていくのも癖。というわけで仕切り直し。
 久しぶりの図書館は、ずいぶん様子が変わっていた。いつもなら開館と同時に新聞の閲覧コーナーは老人たちが占拠しているのに、閲覧禁止でだれもいない。販売機前のソファーで菓子パン片手にゆったりと時を送る常連さんたちも姿を見ない。椅子は撤去され、机には白布がかかり、殺風景を避けるかのように蔵書が面出しされている。座って読書などいけません。借りたらさっさとお引き取りください。無言のメッセージ。
 毎日新聞を読みに来る老人たちは、今どうしているのだろうか。日がな静かな図書館で時を過ごす異形の風体の人たちは。せめてここに代わる居場所が与えられていますように。