ニュース日記 1006 イデオロギーのねじれ
30代フリーター 政府が日銀の新しい審議委員に選んだ2人は金融緩和・積極財政を主張するリフレ派と報じられている。高市政権が「大きな政府」を目指していることが鮮明になり、インフレがさらに進む可能性が強まった。
年金生活者 それによる国民生活への圧迫を野党が阻もうとするなら、「小さな政府」路線で対抗するのが当然ということになるが、いまそんな野党はひとつもない。
今回の衆院選では、与野党とも、消費税か社会保険料かの違いはあっても、そろって減税を公約に掲げた。アメリカの共和党もよく減税を主張するが、「小さな政府」が党の基本路線なので、歳出削減もあわせて主張するのが普通だ。
ところが、日本の与野党は、減税を主張しても歳出の削減は言わない。それが実行されれば、財政規模は膨らみ、政府は大きくなる。つまり現在の国会は経済政策に関する限り翼賛議会になっている。
この事態はさらなる物価高を誘い、国民生活を圧迫する恐れがあるが、高市政権は「積極財政」をやめる気はなく、インフレによって国の借金を事実上踏み倒すインフレ税を狙っていると推定される。国民を待っているのは物価高と事実上の増税による生活の危機だ。それなのに、インフレを止めるために「小さな政府」路線を主張する野党は皆無だ。
30代 対立がないところに民主主義は成り立たない。
年金 その対立の軸のひとつになり得るのが政府の大小だ。アメリカでは、不況やデフレ時には「大きな政府」(福祉拡大・財政出動)を求める声が高まり、インフレや景気過熱時には「小さな政府」(規制緩和・財政規律)が支持されやすい。前者はリベラルとされる民主党の、後者は保守的とされる共和党の基本路線であり、それが対立軸となって政権交代を引き起こす。政府の大小と経済の状態のこうした相関関係は、資本主義のもとにある民主制国家のシステムを支える基本要素のひとつということができる。
ところが、日本ではそうなっていない。アメリカとは逆に保守的とされる自民党がほぼ一貫して「大きな政府」路線をとり、長期政権を維持してきた。これに対し、左派ないしリベラルとされてきた野党は「もっと大きな政府」を主張し、「小さな政府」を主張する政党は存在しなかった。
そんな中で珍しく小泉政権が規制緩和や郵政民営化、財政支出抑制など「小さな政府」路線をとり入れて、国民の広い支持を得た。高市政権の「積極財政」の綻びが広がれば、小泉政権に学ぶ野党が出てくる可能性がある。
30代 朝日新聞と社会心理学者の三浦麻子が実施したネット意識調査では、自らのイデオロギー(政治的立場)を左寄り(リベラル)と自認している人の衆院選での投票先は、40代以下だと自民党が最多で、10~30代では34%に達し、中道改革連合は9%とどまっていた(2026年2月8日朝日新聞デジタル)。戦後の日本で主導的だったイデオロギーにねじれが生じている。
年金 保守とリベラルの対立に対する認識がアメリカ流に近づく可能性を示す兆候かもしれない。
この見方には、中道も「大きな政府」路線ではないかといった反論が予想されるが、この党にはリベラル派が重視する「多様性」が自民党ほどない。中道を結成したふたつの党のうち、立憲民主党のルーツのひとつは旧社会党であり、そのイデオロギーは社会主義という統制経済を基本とし、また公明党は宗教教団を基盤とした一律性に特徴がある。一方、自民党内には村上誠一郎のように党是に反して憲法9条の改正に反対する議員もいる。
朝日新聞と三浦による調査の結果について、社会学者の仁平典宏は、ルールの厳格な運用を求める意識の高まりが関係していると指摘している(26年2月17日朝日新聞朝刊)。
仁平が首都圏の中学校に通う生徒約2千人を対象に実施している意識調査では、「ルールはみんなの話し合いで決めたほうがいい」という「民主主義志向」に①まああてはまる②とてもあてはまると回答した生徒は2018年で91・2%、25年で96%と高水準で推移している。一方「ルールを守らない人は厳しく罰するべきだ」については①②合わせた割合は18年に59%だったのが、25年には79・3%に急増した。
この結果について、仁平は「色々な考えがあってもいいけれどルールは守れよという厳格さは、集団全体の方向に従う権威主義や国家主義的な価値観を強めている可能性があります」と語り、それが高市自民党への支持につながったと推定している。
30代 なぜ短い間に急にルール厳守の意識が高まったのだろう。
年金 背景に国際法に違反してウクライナを侵略したロシアのルール破りがあると考えられる。ルールの遵守、すなわち「法の支配」は「自由」「人権」「多様性」とともにリベラル派が重視する理念だ。人間は戦争によって法的な関係に入るとカントは指摘した(『永遠平和のために』)。日本国民は第2次世界大戦の経験を経て戦争の拒否へと転じた。それが現在の若者に「法の支配」の重視として受け継がれていると見ることができる。
