ニュース日記 1004 9条という抑止力
30代フリーター 衆院選の当選者のうち、憲法改正賛成派が93%を占めることが、朝日新聞社と東大・谷口将紀研究室の共同調査でわかったと報じられている(2月21日朝刊)。昨春の同社の世論調査では、いまの憲法を「変える必要がある」は53%で、「変える必要はない」の35%を上回っており、国民と国会議員との間には大きな乖離があることがわかる。
年金生活者 乖離は必然的なものだ。国会議員は国民の代表者であることによって国家権力の一部を分け持つ。 国家権力を縛るのが憲法だから、その権力を分け持つ国会議員は、できるだけ憲法の縛りを緩めたいと思う。おのずと改憲賛成派が議会の多数を占めることになる。朝日・東大共同調査で、議員らがあげた改正項目で最も多かったのが「自衛隊の保持を明記する」の80%で、国家権力に対する究極の縛りとも言える9条を緩くすることを望んでいることがわかる。
30代 2024年衆院選時の共同調査では、当選者のうち改憲賛成派は67%で、今回の9割超より少ない。前回衆院選で落選した改憲積極派の旧安倍派の元議員が多数復帰し、護憲派の多い立憲出身の中道改革連合の議員が多数落選した結果だろう。
年金 改憲賛成派が急増したからといって、国民の大多数が改憲賛成に回ったということを意味しない。選挙は憲法をもとにした法律によって行われる。言い換えれば、現行憲法の遵守、すなわち憲法を変えないことを前提にしている。その投票結果は制度上、改憲への賛否を示すものとはなり得ない。
憲法を制定、ないし改変する権利は、広い意味での立法権に属するが、それは憲法に定められた3権のうちの立法権とは異なる。国会は改憲を発議することはできても、決定することはできず、判断は国民投票にゆだねられる。高市政権がどんなに改憲に前のめりになろうと、改憲の是非は、政権とも、国会とも、裁判所とも別の次元において判断される。
30代 衆院選で圧勝した自民党が改憲に前のめりになるのは確実だろう。
年金 これまでこの党は改憲を党の結束を保つための合言葉のように口にしていただけで、本気でやる気はないと私は見ていた。費やさなければならない政治的エネルギーの大きさが並みでないうえ、国民投票で否決されるリスクが小さくないからだ。だが、高市人気が選挙で予想外の爆発力を発揮したため、その力を使えば、国民投票にも勝てそうだと思い始めたと推察することができる。
自民党が出してくる可能性のある改憲案は、9条に自衛隊の保持を明記することと、大災害時などに国会議員の任期を延長できる緊急事態条項をもうけることのふたつが考えられる。前者は現在と変わらない「専守防衛」が維持されると主張できるし、後者は内閣の権限強化や私権制限をともなわないので、国民の賛同を得やすいと考えるはずだからだ。
しかし、自衛隊保持の明記は条文上は「専守防衛」が維持されるように見えても、その縛りが緩む可能性がある。緊急事態条項は、当面は国家議員の任期延長だけにとどまっても、内閣の権限強化や私権の制限をいずれ加える余地が条項の新設によって確保されることを意味する。国民がそれをどう受け止めるか。国民投票の結果を予測することは難しい。
30代 高市政権が目指す「防衛力の強化」を国民の多くが支持していることを今回の衆院選は示した。
年金 それが改憲賛成に直結するかどうかはわからない。
政治的に中立的とされている安全保障の研究者、研究機関が日本の防衛力の強化についてどんな分析をしているか、AI(Grok)に尋ねてみた。Grokはふたりの研究者とひとつの研究機関をあげ、3者とも、強化しない場合のリスクが大きいと判断していると応答した。
そうした結論が導かれるのは、9条の持つ見えない抑止力を過小評価していることによると思われる。この条項の非戦・非武装の理念は、赤ん坊の無力な状態にたとえることができる。わが身を守るすべを持たない赤ん坊に危害を加えようとする者はごくまれであり、逆に守ってやりたいと思う人がほとんどだろう。それは感性的なものであり、定量的なエビデンスを示すのは困難なので、専門家の評価は低くならざるを得ない。
ただし、3者とも高市政権とは違って、防衛力の強化のために9条の改正が必要だとは結論づけていない。現行のままでも、憲法解釈によって強化することが可能であり、むしろ変えないほうが「平和国家」のイメージを保てるので、中国との緊張緩和などに寄与するとの指摘もある。
30代 自民党が9条に自衛隊保持を明記することを主張するおもな理由は、防衛力の強化よりも自衛隊違憲論の解消にあるとされている。自衛隊の法的安定性、隊員の地位の明確化をはかるのが狙いだ、と。
年金 つまり9条による自衛隊への縛り、憲法による国家権力に対する縛りを緩めようとしていることを意味する。国家を開くこと、すなわち個人の自由を拡張することを、あるべき未来へ向けた課題と考えるなら、9条の改変はそれに逆行すると言わなければならない。
