ニュース日記 1001 「積極財政」が意味するもの
30代フリーター 債券安、円安を引き起こす高市政権の「積極財政」に経済界からも批判が出ている。楽天グループ会長の三木谷浩史は「高市政権はよい政策もあるとは思うけど、今の状況を鑑みるとこの超積極財政はマクロ経済的に極めて危険」と指摘している。
年金生活者 それでも高市政権が今の路線を変えることはないだろう。どんなに不合理に見えようとも、それは新たな段階に向かおうとしている資本主義の要請だからだ。
第3次産業を牽引車とする現在のポスト産業資本主義は、利潤の源泉となるイノベーションを、グローバル化を原動力に繰り返してきた。モノ、カネ、ヒトの国境を越えた移動は、世界経済を「買い手に極楽、売り手に地獄」(長谷川慶太郎)のデフレ基調にし、襲いかかる価格破壊に「売り手」はイノベーションで応戦してきた。
だが、新型コロナウイルスの流行とロシアのウクライナ侵略はそれに急ブレーキをかけた。国家は自らを閉じ始め、グローバル化は減速し、世界経済はデフレからインフレに転換した。それはこれまでとは異なる利潤の源泉を資本主義が求め始めたことを意味する。それを獲得するには新しいインフラの構築が必須となる。
30代 新しいインフラとは具体的にどんなものだ。
年金 AIや量子コンピューター、バイオなど最先端技術で構成されることになるのは確実だ。その研究開発には膨大な費用と手間がかかり、民間企業だけでは不可能なので、国家の手を借りなければならない。ポスト産業資本主義のインフラとなったインターネットがほとんど民間の手で発展してきたのとは対照的と言っていい。
高市政権の「積極財政」を長期的視点から位置づけるなら、新しいインフラを構築するための費用調達ということになる。「危機管理投資」の名のもとに、AIをはじめ、半導体、量子コンピューター、核融合、バイオ、航空・宇宙などの先端技術の開発に税金を投じようとしている。その結果、財政赤字がいっそう拡大しても、またそのせいで政権が代わったとしても、それは止まることはないだろう。
30代 その行き着く先は国家財政の破綻だ。
年金 かつて西欧の絶対王政国家は軍事力を使って航路開拓や植民地獲得を進め、商業資本主義のインフラを築きあげた。そうした「重商主義」という名の「積極財政」がやがて「財政破綻」を招いた歴史がいま形を変えて反復されようとしている。グローバリゼーションにブレーキがかかり、推進力を失い始めているポスト産業資本主義に取って代わる次の段階の資本主義として、新しいバージョンの商業資本主義が勃興しつつある。
絶対王政国家の重商主義政策は航路開拓と植民獲得を通じて世界市場を形成した。それは商業資本主義のインフラとなったばかりでなく、次の産業資本主義の発展のインフラともなった。だが、そのための投資に要した膨大な費用はやがて絶対王政国家の財政破綻を招く。航路開拓や植民地獲得には常備軍の力が必須であり、その維持や戦争に巨額の費用を要したからだ。
30代 現在の国家もそれがわかっていて同じことを繰り返そうとしているのか。
年金 資本主義の更新は、国家にとって自らの存続がかかっており、それはいま軍備の増強と産業インフラの構築の一体化として進んでいる。軍事と産業、政治と経済、国家と市場という、別次元にあるものの結合が深まっている。
東西冷戦期までの軍事力が、兵器の量や火力といった、物理的な破壊力を中心としたものだったのに対し、現在のそれは、AI、衛星、サイバー技術といった、物理的な破壊力とは直接関係のない最先端技術に支えられたものになっている。それらはいずれも民間の産業インフラと重なっている。
ここには軍事力の増強が産業インフラの整備を促進し、産業インフラの整備が軍事力の増強を支えるという相互依存的な関係が成立している。
こうした軍産の一体化は、かつて西欧の絶対主義国家が進めた重商主義政策と相似形をなしている。国家による常備軍の強化、その力を使った航路の開拓と植民地の獲得は、当時の商業資本主義に必須のインフラである海上交通網と海外拠点を構築すると同時に、それらが常備軍の展開力を拡大する基盤ともなった。
いま世界で起きている軍拡とインフラ投資の競争は、自国第一主義をイデオロギー的な支えにしている。軍産の一体化という、国家による市場への大規模な介入にはナショナリズムのあと押しが欠かせないからだ。そのナショナリズムに燃料を補給するのがポピュリズムであり、高市政権の「積極財政」が軍備の増強とともに、財源不明の消費減税などバラマキを含んでいるのは必然と言える。
30代 ジイさんは、それを商業資本主義の形を変えた反復だというが、それが何世紀も前の貧困と戦争の時代に戻ることを意味するなら、それに耐えられる人間がどれだけいるか。
年金 昔のような貧困と流血がそのままよみがえるわけではない。新バージョンの商業資本主義のインフラは、それまでに累積した資本主義の各段階のインフラを土台に構築されるからだ。
