ニュース日記 999 運のいい政権
30代フリーター 高市早苗が今月23日召集の通常国会冒頭で衆院を解散すると報じられている。高い内閣支持率は衰えず、自民党が単独過半数を獲得する可能性も指摘されている。
年金生活者 いま選挙があったらどの党に投票したいかという質問に、自民党と答えた人がこの半年で4割増え、増加分のほとんどが高市に好感を持つ人で占められていることが、朝日新聞と大阪大の社会心理学の教授・三浦麻子によるネット意識調査でわかったという(12月29日朝日新聞朝刊)。「高市効果」が自民の議席を増やし、「高市1強」を現出させる可能性がある。
「日本初の女性首相」の看板が高市を現代にタイムスリップした太陽神アマテラスにし、ミソもクソも同じように輝かせてしまっているのが今の日本の政治状況だ。他の先進諸国で女性首相が誕生しても、同様のことが起きる可能性は想定しにくい。類例のない高市人気は母系制への回帰を示すものであり、他国にはない天皇制が回帰の経路となっていると思える。
30代 ジイさんの話も大昔にタイムスリップしている。年金 右派、保守派は男系男子による皇位の継承を主張する。つまり天皇制を父系制と理解している。しかし、『古事記』『日本書紀』の神話では、天皇の始祖は女性神のアマテラスとされており、天皇制のルーツは母系制だ。吉本隆明は『共同幻想論』で「未開の段階のある時期に、女性が種族の宗教的な規範をつかさどり、その兄弟が現実的な規範によって種族を支配した」社会を「〈母系〉制の社会」と呼び、その原型をアマテラスとその弟のスサノオの関係に見ている。
30代 高市政権の誕生は、世界的なナショナリズムの高まり、言い換えれば「愛国心」の高まりの波が日本にもおよんだ結果だろう。
年金 吉本の言葉を借りて言えば、国を愛することは、国家という「共同幻想」を、愛という「対幻想」の対象にすることを意味する。愛国心の高まりは、別次元にある「共同幻想」と「対幻想」が例外的に合体した状態と考えることができる。日本の場合、その合体が母系制への回帰という形をとって起きている。吉本は「兄弟と姉妹のあいだの〈対なる幻想〉が種族の〈共同幻想〉に同致するところ」に「〈母系〉制社会」の本質があるとし(『共同幻想論』)、「同致」という独特の言葉でふたつの幻想の合体を言い表している。母系制を根幹とする天皇制はしたがって、「愛国心」に火をつけやすい。
30代 他の先進諸国は違うのか。
年金 市民革命によって形成されたフランス人の「愛国心」を表す「patriotisme」のもとになった「patrie」は「祖国」「郷土」「故郷」を意味し、その語源はラテン語の「patria」(父の土地、祖国)で、さらに「pater」(父)にさかのぼるとされる。西欧の愛国心は日本と違い、父系制への回帰によって高まる可能性を想定することができる。
法律上は政治に関与しないことになっている天皇は、条件さえそろえば政治情勢を一変させる力を秘めていることを高市人気から読み取ることができる。
30代 総選挙で自民党が勝ったとしても、高市政権の「積極財政」はインフレを助長し、さらなる高物価で国民生活を圧迫する可能性があり、いずれ政権が行き詰まるときが来るのではないか。
年金 史上最大規模といわれる新年度予算案は、実は「積極財政」ではなく、逆に「大増税の緊縮予算」と池田信夫が指摘している。約3%のインフレが4年ほど続き、実質的な増税となる「インフレ税」が課されることになるからで、その結果、財政赤字の縮小や富の再分配が進むと予測している。
池田はこのインフレ税をラーメンの値段にたとえて説明している。3%のインフレになると、1000円のラーメンが1030円になる。その結果、消費税は100円から103円になるが、税率が上がったわけではないので、客のほうは増税された感じがしない。しかし、税収は3円の増収となり、政府債務は減っていく。
インフレは国民全員におよび、金融資産も目減りさせるので、金持ちへの課税が実質的に強化されることになる。その結果、富の分配は平等化へと向かう。また現役世代の社会保険料負担も実質的に軽くなる。こうして大きな所得の再分配がだれも気づかないうちに行われる、と池田は説明する。これに素人なりにつけ加えるとすれば、インフレ税による増収を、国民の求める所得税の減税やバラマキの財源にすることもできるし、政権の目指す防衛費の増額や危機管理への投資にあてることもできる。
国民にゆでガエルのように熱さを感じさせないで増税でき、所得の平等化や新たな施策の追加を可能にするインフレ税は、高市政権にとって、苦労しないで高支持率を維持していく大きな追い風となる可能性がある。
30代 政権にとっては、濡れ手で粟のようなことになる。
年金 物価対策と称して進められる減税やバラマキは逆効果を生み、政権の最大のつまずきの石になる可能性があると私も考えていた。しかし、インフレ税がそれを回避する可能性があるなら、その考えは変えなければならない。運のいい政権だよ。
