老い老いに 63

 2006年の我が家の元旦は例年と違っていた。

 まずは二男。私が台所に降りたらすでにテーブルについて、昨夜の残り物で朝食を摂っていた。何を思ったか、年賀状配達のアルバイトをすると言い出したのだ。年末から始め、初日はかなり疲れて帰ったので続くかどうかと心配したが何とか勤め上げ、元日を迎えたのだった。松江市内でもかなり東、自転車で45分かかるところの地区を担当しているとのこと。やんちゃ坊主でこれまで散々手を焼いた子だ。それが、世の中皆正月気分で浮かれているのに、自転車で寒い中頑張って出勤するようになったかと思うと、少し頼もしく感じた。

 次は長男。東京の予備校の寮に入っての一人暮らし。夏に帰って以来5ヶ月ぶりに見せた姿はぼさぼさの髪に鼻ひげまで生やしている。まずは髪を切ってやった。元日は毎年お参りする氏神様に行って合格祈願。去年は菅原天満宮に詣でたけれども願いは叶わなかった。天神さんに「努力が足りない」と言われたようだ。今年の氏神様は長男をどう判断するだろうか。その夜、一人バスに乗り込む息子の背中を抱きしめたい思いだった。

 そして長女。去年までは家族と一緒には詣でなかったのに、年女でもあるからか、愛犬エリーを連れて氏神様に参った。社会人1年生となって、仕事で悩むことばかり。毎年2日には出雲の家を開けに行って一泊するのだが、今年、長男は東京、二男は早朝のアルバイトがあるので長女と二人日帰りで行った。その行き帰りの道中、娘はしゃべりづめだった。だんだんに担当患者が増え、カンファレンスや勉強会などで一緒に食事が出来ない日が多くなっていた。夕食時に家族に吐き出せずにいた溜まりに溜まった話をまくしたてたのだった。

 前年に2度目の大病を患った夫。冠状動脈に2本ステントを入れ、ニトログリセリンをいつも持ち歩く生活。酒を減らすこと、喫煙者の多いパチンコ屋にはなるべく行かないようにと言われている夫は、氏神様に無病息災を祈願してから、「じゃ、行ってくるわ」と私たちに踵を向ける。行先は勿論、パの字の付く所。娘も息子も唖然とした顔をしていた。