人生の誰彼 36 ばけばけはうらめしい

 明治時代の松江を舞台にしたNHK朝の連続テレビ小説『ばけばけ』放送のおかげで、松江城のお堀端にある『小泉八雲記念館』や『小泉八雲旧居』周辺は休日ともなれば警備員さんが出動するほどの大賑わいを見せています。

 元々この塩見縄手と呼ばれるお堀沿いの通りは江戸時代の面影を今に伝える一帯で昔から松江の観光名所ではありましたが、それでも小泉八雲ゆかりの施設に順番待ちの入場制限がかかるなど聞いたこともありませんでした。流石、聞きしに勝る朝ドラのインパクト恐るべしといったところでしょうか。

 私は小学校3、4年生のとき、この近くの小学校に通っていたので小泉八雲のことは「その昔、お堀の近くにラフカディオ・ハーンという偉い外国人の先生が住んでいた」と、何をした人かよく分からないままヘルン先生という愛称とセットで刷り込まれて育ってきました。(因みに「小泉八雲」と「ラフカディオ・ハーン」と「ヘルン先生」というのは同一人物です)なのでヘルン先生のことは何だか知ったような気分のまま時は流れ流れて、今頃になってあれこれ勉強する有様です。

 この松江城周辺から京店商店街あたりにはヘルン先生にまつわる記念碑的な物体があちこち見受けられますが、中でも秀逸?なのが京店カラコロ広場にあるレリーフでしょう。ここの壁に帽子を被り両手に旅行鞄を提げた寅さんみたいなおじさんが後ろ姿ではまり込んでいるのですが、これがヘルン先生なんですね。

 さて、前置きはこの辺にしてここからが本題です。ばけばけ効果で観光客が増えて地元の商業関係が潤うのは有り難いことですが、地元民として個人的に困惑していることがあります。それは蕎麦が気軽に食えなくなったことです。

 拙宅から徒歩圏内にある石橋町の『きがる』という蕎麦屋に妻とよく通っていたのですが、ここ最近いつ伺っても大行列。ばけばけ前は12時まで行けばギリギリ待たずに入れたのですが、今では14時ごろでも10人以上の待ち客が店の前に並んでいます。木、金、土曜日は夕方からも営業していて、普段は夜の客入りは昼と比べれば少なかったのですが、土曜夜に行ってみたらこれまた満席。

 こうなると余計にきがるの蕎麦が意地でも食べたくなるのが人情というものです。週末は多いから木曜の夕方早めに行ったらいいかもと妻と勇んで行ったら一席だけ空いていて漸くきがるの蕎麦にありつくことができました。うらめしや。