ニュース日記 994 続・高市人気の秘密
30代フリーター 歴史の転換期には女性のリーダーが現れやすいという指摘がある。古くは7世紀日本の推古天皇、16世紀イギリスのエリザベス1世、現代ではインドのインディラ・ガンディー、英国のマーガレット・サッチャーらがあげられる。スケールは彼女らに及ばないものの、高市早苗もそうした女性のひとりと言ってもいいかもしれない。
年金生活者 朝日新聞の世論調査(11月15、16日)では、高市内閣の支持率は69%と、10月の発足直後の68%と並び、「歴代屈指の高さを維持している」(11月17日朝日新聞朝刊)。発足後2回目の調査の内閣支持率は、「ご祝儀相場」になる1回目より下がるのが一般的なのに、それをくつがえす結果となったのは、高市政権の登場に世界史的な背景があることをうかがわせる。
その背景のひとつにナショナリズムとポピュリズムの広がりがある。朝日新聞の世論調査にもそれがあらわれている。
日本に来たり、暮らしたりする外国人が「増えたほうがよい」26%に対し、「減ったほうがよい」は56%におよんでいる。高市政権が厳しくする方針の外国人政策については「期待のほうが大きい」が66%と、「懸念のほうが大きい」の24%を大幅に上回っている。日本にもナショナリズムが他の先進国並みに広がり始めたことを示す数字だ。
ポピュリズムの広がりは、積極財政を進める高市政権の経済政策への評価にあらわれている。物価高対応を「評価する」が44%と、「評価しない」の35%を上回った。岸田文雄政権や石破茂政権では「評価する」が1割台に低迷することが多く、「政権浮揚の妨げになってきた」(同朝刊)のにくらべると大きな違いとなっている。
このことから推定できるのは、男性の首相が同じことをしてもあまり評価されず、高市は女性だからこそ評価されているのではないかということだ。「初の女性首相」という革新性が、ジェンダーとは直接関係のない政策の評価まで押し上げていると考えることができる。初めて女性首相の座をつかみ取ったほどの人物なら、公約したとおりのことをやってくれるのではないかという期待だ。
推古天皇も、エリザベス1世も、インディラ・ガンディーも、サッチャーも、男性優位の政治の行き詰まりで国内が混乱したときに登場したとされる。高市もそうしたリーダーのひとりとして期待されている可能性がある。
30代 歴史の転換期に女性のリーダーよくあらわれるのはどういう理由からだ。
年金 吉本隆明は『共同幻想論』で「〈母系〉制の社会」を「家族の〈対なる幻想〉が部落の〈共同幻想〉と同致している社会」と定義し、その形態のひとつとして「未開の段階のある時期に、女性が種族の宗教的な規範をつかさどり、その兄弟が現実的な規範によって種族を支配した」社会を想定した。その原型を『古事記』のアマテラスとその弟のスサノオの関係に見ている。そして、「〈母系〉制の社会」の派生形態として「種族の女性の始祖が宗権と政権を一身に集中した場合」を想定し、それを「〈母権〉制社会」と考えた。
この考えを拡張すれば、歴史の転換期における女性リーダーの登場は「種族の女性の始祖が宗権と政権を一身に集中した場合」に相当し、母権制の部分的な回帰とみなすことができる。「女性が種族の宗教的な規範をつかさどり、その兄弟が現実的な規範によって種族を支配した」と考えられる「〈母系〉制の社会」において、「兄弟」による支配が破綻し、「姉妹」が「宗権」のみならず「政権」も担わざるを得なくなったと推定することができる。
30代 母系制が人類史の普遍的な段階として存在したとする説は、19世紀にモーガンやエンゲルスによって唱えられて広まったが、現在では、母系制は一部の地域に限られた形態と考えられ、彼らの説は学界の主流ではないと聞いた。
年金 私の素人考えでは、遺跡や遺物の科学的な分析技術が発達し、母系制を裏づける物証が存在しないことが明らかになった結果と思われる。それ以前はそうした明瞭なエビデンスがなかったため、思弁によって古い社会の在り方を推定するほかなかった。それがモルガンやエンゲルスの説を成立させることになったと考えられる。
母系制も母権制もモノではなく、「家族の〈対なる幻想〉が部落の〈共同幻想〉と同致して」成立した「幻想」の一形態だ。「幻想」である限り、「物証」によって存在が裏づけられることはまれだ。それが母系制を「地域限定」の制度と考える説を現在の主流にしていると思われる。
30代 高市政権の成立が母権制の回帰の結果だとすれば、簡単には倒れそうにない。
年金 回帰は部分的なものだ。政権は盤石とはいえない。例えば、安倍政権にあって、高市政権にないのは敵役の存在だ。安倍政権は挫折した民主党政権を「悪夢」と呼んで、その負の遺産を自らの政権の浮揚力とした。これに対し、少数与党の高市政権は野党を敵に回すことができない。安倍路線の継承者を自任する高市は肝心なところを継承できないという制約を負っている。
