老い老いに 53
2004年へと移った年の初め、夕焼け通信に私が連載したのは『三歩、散歩、賛歩』だ。
通信発行開始の年に夫が解離性大動脈瘤で入院した。それを機に喫煙をやめ、酒も控えるようになった夫だが、仕事柄座ることが多く運動不足になりがちなので、夜歩くようにした。途中から愛犬エリーも加わっての散歩を続け、そこで見聞きしたり感じたりしたことを綴った。
その散歩、今は私一人で続けている。エリーは11年前に亡くなってしまったし、夫は脊柱管狭窄症で整形外科通いになり、歩くのは家の中くらい。短い距離でもすぐに立ち止まったり座り込んだりする状態で、私と一緒には歩けない。
連れがいなくなってしばらくは長い距離を歩かなくなっていたけれど、歩く必要性に迫られたのは膝に水が溜まってからだ。整形外科で診てもらうと変形性膝関節症とのことで、週1回のヒアルロン酸注射を5回続けた。作業療法士をしている娘から、「軟骨が減るのは年だから仕方ない。周りで支える筋肉をつけないといけないよ」と言われ、はじめの頃は痛みを堪えつつ少しずつ、痛みが少なくなるにつれて距離を延ばすようにした。
事あるごとに「加齢」の言葉を突き付けられ、年々足腰が弱り、飛んだり跳ねたりは元より、坂を上るのさえ息が切れるようになってきた。できることと言えば、平坦な道を歩くことだけだ。今は午前午後、空いた時間に歩くが、酷暑の夏、早い時は四時半くらいから懐中電灯を提げて歩いた。2回目は、夕方少し気温が下がった頃、川べりを歩くと、気分的に涼しくなるのだ。
散歩はただ歩くだけではない。季節の移ろいを肌で感じることができる。年の初めは寒風の中、身を縮めながらも春の訪れを少しずつ見つけていく楽しみがあり、春はとりどりの色の花々を眺められる。夏の朝はオリオン座の輝きにうっとりし、暑さの残る夕刻にさっと風が吹きつけてくるのが心地よい。副産物もある。4月は蕨摘み。6月末から7月初めにかけては野イチゴ。毎朝採ったのを冷凍し、たまったらジャムにする。暑い日にはバニラアイスにつけて食べると最高だ。先ごろは栗を拾い、栗ご飯にした。
そろそろ金木犀の香りが漂ってくると思うのだが…。