ニュース日記 987 ナショナリズムの時代
30代フリーター 高市早苗が自民党の総裁に就任した。反グローバリズムとポピュリズムの形を取って世界に広がるナショナリズムが、日本でも政治を大きく左右するファクターになった。
年金生活者 ナショナリズム、とりわけ先進国に広がるナショナリズムの背景にあるのは、資本主義の高度化、言い換えれば第2次産業を牽引車とする産業資本主義から第3次産業中心のポスト産業資本主義への移行だ。この変化は富の稀少性の縮減を加速し、消費の過剰化、産業のソフト化、資本のグローバル化をもたらした。それらは、国家の権力の一部を分散させる方向に働いた。消費の過剰化は個人への、産業のソフト化は企業(市場)への、資本のグローバル化は国連に代表される国家間システムへの権力の移動を促した。
30代 それはナショナリズムとは逆方向の変化ではないか。
年金 分散した権力を手にした個人は相応の処遇を求めるようになり、それが「万人の万人に対する冷戦」を生んだ。企業(市場)は国家による統制を免れたぶんだけ競争を激化させ、貧富の差を広げた。さらに国家間システムへの権力の移動は国境の垣根を低くし、各国に移民・難民など外国出身の労働者の増大をもたらした。
それらはいずれも元からの国民の不満と不安を呼び起こし、その解消を国家に求める世論を広げた。「万人の万人に対する冷戦」は治安対策の強化を、格差の拡大は再分配システム=社会保障制度の見直しを、移民・難民の増大はその制限を国家に要求する国民を増やした。
やがてその世論にこたえようとする政党が各国に誕生した。反グローバリズムとポピュリズムを特徴とするナショナリズムの政党だ。アメリカではトランプの率いる共和党MAGA派、フランスでは国民連合、ドイツではドイツのための選択肢、日本では参政党がそれに該当する。それらはアメリカ以外では、まだ政権を握っていないが、政権与党の向きを変えてしまうほどの勢いを見せている。日本の参政党は、石破政権によって左方向に振れていた自民党を右旋回させ、高市を党のトップに押し上げた。
30代 高市は女性初の自民党総裁になったが、マスメディアはそこに焦点を当てた報道をあまりしていない。
年金 彼女の当選は「女性の代表として」とか、「女性だから」といった理由によるのではなく、ジェンダーの別にはほとんど関係のない理由によるものだった。その点に限れば、高市が日本の第1党の党首に選ばれたことは、ジェンダー平等にとって、「女性の代表として」とか「女性だから」といった理由によるよりも、一歩前を進んでいると言える。
30代 高市はフェミニストから「名誉男性」というレッテルを貼られたりしている。
年金 彼女は女性であることを「売り」にせずに自民党のトップの座をつかむために、代償として「男社会」の論理を受け入れることを選んだ。選択的夫婦別姓制度に反対するなど家父長的なイデオロギーを持つ安倍晋三を、自らの目指す政治家のモデルとした。
小池百合子も女性を「売り」にせずに首都の知事の座をつかんだが、高市と違うのは「男社会」の論理を高市ほどは受け入れていないことだ。都知事に初当選した選挙で、男性優位のかたまりのような自民党を敵に回して勝利したことがそれを示している。彼女は、「女のくせに」とか「女だから」といった「男社会」からの難癖を寄せ付けない政治的な力量を備えていることを証明した。3選を果たした都知事選で蓮舫を圧倒した要因のひとつもそこにある。
30代 「女性の代表として」とか「女性だから」といった、いわば「女性枠」を使って、女性が行政や企業のトップや幹部になるのは、ジェンダー平等を前進させるために、必要かつ有効なことだろう。クオータ制はそれをシステム化したものだ。ジェンダーの壁に阻まれて教育や訓練を受ける機会を奪われてきた女性にとって、ハンディなしの競争は圧倒的に不利であり、それを解消するための仕組みとして使われている。
年金 それは、ジェンダー不平等が残る段階での過渡的なシステムにとどまることも確かだ。競争社会を前提にして言うなら、どんな女性でも、「女性枠」を使わない高市や小池のように、しかも、男性以上の代償を支払うことなく、組織のトップや幹部になる機会を持てるようにならなければ、ジェンダー平等にはならない。
高市の当選についてフェミニストの上野千鶴子は「初の女性首相が誕生するかもしれない、と聞いてもうれしくない」「これで選択的夫婦別姓は遠のくだろう」とⅩに投稿していた。政治家の主張と地位は次元の違うものなのに、区別せずにものを言っている。同じ左派でも、辻元清美はそんな混同をしていない。「自民党では初の女性総裁、高市さん、ガラスの天井をひとつ破りましたね」とⅩに投稿した。アカデミズムや市民運動とは異なる政治の現場の経験を経た言葉だ。
30代 自民党は右旋回したまま進んで行くのだろうか。
年金 ナショナリズムは世界のトレンドになった。イタリアに続いて日本でも、女性がその流れの主役になった。