座付きの雑記 17 堀川ゆうれい船④
いよいよNHK朝の連続テレビ小説『ばけばけ』が今月29日から始まる。怪談をやってほしいという要請は、うんと増えているし、市内のあちこちで小泉八雲・セツ夫妻のイラストに「あげ、そげ、ばけ」と染めた幟が立っている。朝ドラで取り上げられることの影響力はすごい。
15年前の朝ドラ『ゲゲゲの女房』の時は、水木しげるの妻、つまりゲゲゲの女房の実家が安来にあるので、やっぱり相当な騒ぎだった。同じ地区に嫁いでいる義妹から驚くような話をよく聞いた。ドラマの評判が高いと、人は変哲のない小さな町にでも足を運ぼうとするもののようで、バス仕立てで観光客が次々とやってきたそうだ。当然一過性で、とっくに元の佇まいに戻っている。戻らなかったらそっちの方が怖いのであるが。
落語教室生に小泉八雲の怪談を勧めるようになったのは一年以上前だ。そこから少しずつ語る子も演目も増えていった。高座でかけるようになって、なんか定着してきたかなと感じ始めたころに、『ばけばけ』である。以降関連した企画が入り始めたが、「堀川ゆうれい船」ももちろんその一つ。リクエストされれば子どもたちも気分がいいので、自ずと気合いが入る。堀川ゆうれい船は、要求も高かったので、それに応えるべく子どもたちは相当な回数を練習したはずだ。自身の八雲やセツへの関心も高くなって、夏休みの研究に取り上げた子もいた。ちなみに、この子は研究成果をまとめたもの(学校でやってる模造紙に書くもの)を縮小コピーして、乗船客に渡している。それがとても好評だった。
練習量と、作者理解の深まりと、表現するいくつかの場が得られたことで、ゆうれい船をきっかけにこどもたちの語りは確実に進化した。つまり、繰り返し読み語りするうちに、子どもたちは八雲文学のファンになったのである。落語もそうだが、好きな噺とそうでない噺では、語りにこもる力に大きな差が出る。言わないでも噺を大切に思っているかどうかは、聴き手に伝わるのである。
研究者の池田雅之氏は、八雲の怪談を読むと「心の癒やし効果と清涼感をもたらす」と書いているが、まったくその通りだと思う。自分の読後感にもあるし、語り終えた子どもたちの顔にも、それは見て取れる。こども落語で怪談をかけ続けるというのは、こどもたちの心の健康にも効果がありそうだ。それをいつも聞いているぼくにも。
堀川ゆうれい船以降、新たな語り手が続々誕生している。ぜひ、聞いていただきたい。