座付きの雑記 15 堀川ゆうれい船②

 骨の髄まで公務員体質になっているため、なかなか営利を追うという発想に焦点が合わない。遊覧船を一回運航するのにも経費がかかる、言われるままほいほいと練習なんぞに付き合えるか、というのも考えてみたら当たり前のこと。まして、企画した会社にすれば、県の助成金も得ての事業、むざむざと赤字でしたなどと言えるはずがないのだ。お金を払って乗るのだから、お客さんの見る目は厳しくなって当然なのです、と釘を刺されると、背筋が薄ら寒くなってくる。

 しかし、今さら逃げも隠れもできず、やりますと言ってしまったからには、できる努力を積んでいくしかない。この厳しさを伝えたあたりから、子どもたちも保護者も目の色が変わってきた。ぼくは、船の運航に合わせてシナリオに手を加え、プログラムの修正を繰り返し、子どもたちは家族で相談して、怪談をうまくつなぐための工夫を凝らし始めた。八雲や松江に関するクイズをこしらえた親子があれば、それを落語教室全体に流し、共有を呼びかけた。「ゆうれい船アイデア集」は、それから続々と集まり始めた。自分のお気に入りスポットを紹介しては。おすすめ観光地に実際に行き体験記を写真とともに発表してみたら。乗船してくれたお客さんにプレゼントを渡したい。などなど、届けられる写真や具体物に、子どもたちの本気具合がひしひし感じられた。

 実地の練習も、ペアで単独で、家族が都合を付けて繰り返した。それぞれに年間パスポートを購入して費用の負担を抑え、他に乗船客がいないときは船頭に頼み込んで、声を出してリハーサルさせてもらう、途中から観光客が乗ってくれば、再び黙って、心の内でつぶやいてはコースの中にどうはまるのか確認する、という具合だ。

 熱中症警戒アラートが発令され、欠便もたびたびという中で練習を重ねる教室生親子、ぼくも可能な限り同乗すると宣言していたので、連絡が入れば乗りに行った。乗船場のいつも同じ所に駐めるぼくの青い自転車が遊覧船職員への目印にもなったようで、あるとき運行管理の職員に声をかけられた。

「今日も先生、来ていましたね」

「なんと、貸し切り船にしてもらいました。おかげで練習しっかりできました。わざわざご配慮いただきましてありがとうございます」

「さあ、私は知りませんよ」

とニヤリ。それぞれの立場でこどもたちのために一肌脱ごうか、そんな空気がいつしか生まれていたのだった。(つづく)