座付きの雑記 14 堀川ゆうれい船①
堀川ゆうれい船は、こども噺家が1隻につき2人乗り込む。添乗員として保護者、企画会社員がそれぞれ1名乗船し、残りが客席となる。定員が12名(こどもは2人でおとな1名)の小型遊覧船だから、満席になったとしても客数は10名に満たない。6畳一間程度の小さな船内で、松江城を囲む堀川をぐるっと一周する間に、こどもの語る小泉八雲の怪談などを聞く、という趣向だ。
「子どもたち、きっとやりたがると思います」
もう半年も前だが、最初に構想を聞いたとき、そう言ってしまったがために引き受けたも同然となり、事実聞いてみたらその通りだったので、ごく早い段階で後に引けなくなってしまった。日程やメンバー、演目の調整に特別なことは何もないので、すいすいと計画は進んで、チラシや幟も順調にできていった。
堀川は、少々いびつな正方形を思い描いてもらうとよい。左上の頂点の位置に松江城があり、ぐいっと北西に辺をひっぱったようにして城の周囲をまわる。黒田町のふれあい乗船場を出発した船は、その引っ張られた頂点から次の頂点に向けて南下していく。京橋川に合流すると直角に曲がって東に進み、米子川でまた方向を換えて北進、普門院が右上の頂点となり、そこで西進して小泉八雲旧居や記念館、武家屋敷などが並ぶ塩見縄手を右に見ながら上辺を進み、ふれあい乗船場へと戻る。
企画会社、堀川遊覧船を運営する公社とともに試乗した際、それぞれの所要時間を計ってみた。出発から左辺を進み次の頂点に至るまでをオリエンテーションの時間、下辺を噺①、右辺を噺②、上辺を噺③とすればおよその構成がなる。最初の辺に噺を持ってこないのは、船が民家のすぐそばを通るために声を立てられない区間、さらに橋を通過するのに遊覧船の屋根を下げねばならない区間があり、しゃべる時間を細切れにせざるを得ないからである。
子どもたちそれぞれの持ちネタをその所要時間から配分するのは、パズルをはめていくようで楽しかった。とりあえずこれでやってみて、あとは微調整すべしとなったのが7月の始め。本番の初回が7月30日である。時間はあるようで、ない。リハーサルの船を出してもらうと言っても運行スケジュールや人件費を考慮するとそうそう回数は望めない。実際、はじめこちらの希望を伝えたときは難色を示されてしまった。公社にすれば、まだ海のものとも山のものともつかぬ「ゆうれい船」、そして「こども落語」なるものに協力しようにも、どの程度のことができるものやらわからぬことだらけなのだ。(この稿続く)
