がらがら橋日記 松江噺乃三種盛

 松江城物語と名付けた四編は、その子の特性を考慮して勧める他のネタと異なり、自由にしてくれ、とだれもに公開した。だれからも選ばれないという確率もありはしたが、幸いそういうことはなく、しばらくすると「次の稽古で○○やります」などの連絡が入るようになった。子どもたちにいらぬ気を遣わせているのではないかという気がしないでもないが、そこはおくびにも出さない。

 落語教室を始めた時からオリジナルの演目をもちたいと漠然と思っていたが、歴史館からの注文を受けるという、思わぬところからきっかけが与えられ、願いがかなうこととなった。ただ、演者と聴衆から愛されるネタになるかという根本の問題があるのだが、それは高座にかけてみないとわからないし、並大抵のことではないと覚悟はしている。少なくとも、作品の練度をあげていく足場はできたのだから、それだけでとてもありがたい。

 年明けから、寄席や稽古で子どもたちがかけ始めた。子どもたちのしゃべる様子やお客さんの反応から気づかされることは実にたくさんあって、それがとてもおもしろい。ウケるはずのところが反応がなかったりすると、その理由が思い当たり、なるほどそういうことかと納得する。お客さんや子どもたちに一つ一つ添削してもらっているようなものだ。これから子どもたちそれぞれのアイデアも加わってこようし、当分楽しみが続きそうだ、と今は楽観しかしていない。書き直しながらつくづく思うのは、古典落語の完成度の高さである。さりげない情景描写や小さなセリフの一つ一つに必然性があって、客のイメージが澱んだり脇へ流れたりしないよう細心の工夫が積み重なって、オチへと至る。まさにたくさんの演者で作り上げた知恵の集積だ。

 さて、春先から始めた小泉八雲の怪談、夏から始めた出雲弁落語、冬からの松江城物語、こうして並べてみるといずれも松江ゆかり、よそでは決して得られぬものだから、三つをまとめて何か名付けてみたくなった。セット、詰め合わせ、など思い浮かんだが、どれも言葉におもしろみがなく、あれこれ考えた末に「松江噺乃三種盛(まつえはなしのさんしゅもり)」とした。すぐに三色丼のような絵がうかんできたので、どんぶりの中でそれぞれの登場人物が勝手にしゃべっているようなイメージを伝えて、イラストを描いてもらった。

 今はまだあれこれいじっている最中だが、そのうちチラシにして、みなさまにお披露目できると思う。ぜひ召し上がれ。