老い老いに 19

 この年のニュースで一番衝撃を受けたのは、神戸の小学生殺人事件だった。犯行に及んだのは14歳の未成年。思春期の子どもたちが抱える心の闇が重く心にのしかかった。長女が同じ歳で、その時期の子どもを抱える親として悩んでいた最中だったこともあったろう。事件の報道があった頃、日記にこうある。「帰りが遅いのであちこち電話する。学校にまでかけた。ちょうどその時、帰った。8時10分。昨日、首だけの遺体が置かれる事件があったばかりだ。心配しているのに、帰るとブツクサ言ってふてる。当分口をきくまい」。心配しつつ、相手の態度に本気で腹が立ち、どうしてよいかと右往左往する毎日だった。よく蝶の蛹に例えられる思春期の時期にある子どもへの対応については、後に中学校に勤めた際、そこが荒れていたこともあり、悩み続ける日々だった。暴言、暴力、喫煙、飲酒など、裡から湧き出す衝動を抑えきれず、様々な行動を起こしてしまうのは頭では理解できても、どう対応していいのか分からずじまい。どの行動も社会的に許されるものではないけれども、それが、命を奪う行為にまで至るのは尋常ではない。通常超えることはない壁を突破してしまう行為が現実に起きてしまった。衝撃的な事件だった。

 14歳だった娘が、「死にたい」とまで追い込まれることが、その数か月後に起きた。夕食時に台所に降りてこない。電話機の子機の使用が一時間以上続いている。子機の使用ランプが消えたのを機に二階に上がってドアを開けると部屋の中で泣いていた。数人の級友に囲まれてあれこれ言われたとのこと。クラスで起きているいじめについて話していたら、いじめている子たちの耳に入ったらしい。「四方を囲まれてあれこれ言われるのは死ぬほど辛かった」「いじめは悪いと思うけど、いじめている子たちも色々抱えているのが分かるし」「悪口を言った自分も嫌な人間だと思う」などなど泣きながら話した。どろどろとした思いを抱えて一番苦しんでいるのは本人なのだなと痛感した。翌日は学校を休ませた。家に帰ると、友だちが訪ねてきてくれていた。部屋を覗くと、二人の笑顔が見えた。