ニュース日記 952 2025年に見えてくる景色

30代フリーター 2025年は「米国第一」のトランプの返り咲きで各国の「自国第一主義」が強まりそうだ。

年金生活者 一方で、流血の戦争は縮小し、無血の戦争が拡大するだろう。シリアの内戦の終わりはその走りかもしれない。トランプはウクライナとパレスチナでの流血を止めにかかる一方で、無血の対中戦争をエスカレートさせるだろう。

 世界の戦争の本流は第2次世界大戦を最後に流血の戦争から無血の戦争に移った。東西冷戦はその最初の世界規模の戦争となった。ロシアのウクライナ侵略とイスラエルのガザ地区攻撃は、流血の戦争をふたたび本流に戻すかに見えた。しかし、アメリカはウクライナに対しても、イスラエルに対しても武器の援助はするものの、直接介入は避け、自らは無血の戦場にとどまった。

 東西冷戦時に起きた流血の戦争が、世界規模に拡大することなく、局地戦にとどまり、やがて終結したように、ウクライナ戦争もパレスチナでの戦闘も終わるときが来る。

30代 ロシアの侵略が始まったころ、それが台湾有事を誘発し、流血の戦争が拡大する可能性が語られた。

年金 すぐに力尽きると思われたウクライナが徹底抗戦を続け、台湾への武力侵攻は高くつき過ぎることを中国に気づかせた。

 台湾のほうも、もし中国に攻められても、アメリカは経済制裁や武器援助をするだけで直接の軍事介入はしないという予測を強め、中国を刺激し過ぎないように慎重に振る舞う必要を感じたはずだ。

 無血から流血への世界史の逆転はないことが今年は明瞭になるだろう。

30代 それでも進む「自国第一主義」はいつまで続くんだ。

年金 グローバリゼーションの波に揺られどおしだった国家が世界の主役に復帰したような情景を私たちはこの先何年も見ることになるだろう。だが、この変化が周期の長い歴史の呼吸作用によるものだとすれば、やがて逆の変化がやってくるはずだ。

 グローバリゼーションは東西冷戦の終結とともに顕在化した。西側の先進諸国は、冷戦に敗北した東側諸国と、すでに改革開放で資本主義化した中国の安い労働力を世界市場に導き入れるため、国境の壁を低くした。それは国家の存在理由の部分的な放棄に等しく、主権国家に代わって資本が世界の主役になったような様相を呈した。

 冷戦で東側が敗北した最大の要因は、西側諸国での資本主義の高度化にある。よりこまかく言えば、消費の過剰化、産業のソフト化、資本のグローバル化だ。それらはそれぞれ自由な消費、自由な生産、自由な移動の上に成り立っている。東側の計画経済はそのいずれにも逆らうもので、西側の達成した豊かさにはるかに後れをとってしまった。

 この資本主義の高度化は同時に国家の権力の分散を促した。消費の過剰化は個人への、産業のソフト化は企業(市場)への、資本のグローバル化は国連など国家間システムへの権力の分散を駆動した。それによる自らの弱体化に危機感を覚えた国家の逆襲がそのときから始まった。それが現在の「自国第一主義」につながっている。

30代 バイデンが日本製鉄によるUSスチールの買収を禁止したのも「米国第一」を感じさせる。

年金 余裕のなさを露呈したこの決定はアメリカのカの衰えを示すものだ。日本の自民党は強固な後ろ盾を失ったことになり、この先もう長期安定政権を築くことはできないだろう。

現在の自民党は公明党の議席を合わせても衆院で過半数に達しない比較第1党に過ぎない。覇権国家の座からずり落ち、「比較第1位」の国に過ぎなくなった今のアメリカの地位を模写したようなポジションにある。安倍晋三の政権は自民党最後の長期安定政権として歴史に記録されるだろう。

 自民党を育てたのはアメリカだ。占領軍の農地改革によって誕生した大量の自作農はこの党の支持基盤となった。占領後も駐留し続けた米軍に自国の防衛をまかせた自民党政権は、それで浮いた費用を経済成長に注ぎ込み、企業という新たな支持基盤を手にした。

 そうやって戦後日本の政治システムを支えてきたアメリカは力が衰えるにつれ、日本により負担を求めるようになった。農産品の関税引き下げを飲ませ、防衛費の増額を約束させた。服従の見返りに保護を与えてきたかつての覇権国家の姿をそこに見ることはできない。

30代 自国第一主義は国家の強権的な振る舞いを助長する恐れがある。

年金 これまで各国は資本主義の高度化とともに分散した権力を回収するために、様々な機会を利用してきた。アメリカは9・11テロを、日本は北朝鮮や中国の脅威を理由に、国家の権力の強化をはかった。ブッシュ政権は愛国者法をつくり、国家機関の権限を大幅に拡大した。安倍政権は集団的自衛権の行使の部分容認に踏み込んだ。

 自国第一主義はその延長線上にある。それは対外的には国境の壁を高くすることであり、対内的には政府と国民の間の壁を高くすることを意味する。

ただし、それが一直線に進むとは限らない。壁を高くすれば、反作用も強まる。関税を上げれば返り血を浴びるのは避けられないし、国民に強権を振るえば反発を誘い出す。