がらがら橋日記 松江歴史館①

 国宝松江城をぐるっと囲む堀川については、以前にも書いたが、その北東に北惣門橋という木橋がある。数年前に新しくなったばかりでまだ木肌がみずみずしい。その橋を突き当たったところにあるのが松江歴史館である。松江の文化財や資料の保存、展示を目的に建てられて十年あまりになる。子どものころ、ここがどんなだったか毎日のように見ていたはずなのにまったく記憶がない。一時写真家の並河万里氏が居住していたが、ほどなく転居したと漏れ聞いた。その後のこともよくわからないが、今は瓦葺きの、高さこそないが松江城と対に置いたような重厚な建物がそこにある。

 あからさまな宣伝で恐縮なのだが、3月23日の日曜日、ここを会場に寄席を開く。この話をもらったのは昨夏あたりだったと思うが、子どもたちに聞いたら、ほとんど全員が参加を表明した。日にちのタイミングがよかったこともあるだろうが、やはり会場に特別感があって、ぜひともと思ったのだろう。「そんなりっぱなところでやらせてもらえるのか」と、誇らしい気がしたのではないか。

 十数人で寄席となると、短めの噺でつないだとしてもとても1時間や2時間では収まらないので、事情を話して、二部構成にしてたっぷり時間をかけさせてもらえないかと頼んだら、歴史館もどうぞどうぞという反応だった。当日は火縄銃の演武もあるので、それを間にはさむ格好で、朝席として午前10時から11時、昼席として午後2時半から4時半、合計3時間の寄席となった。名付けて「いきいき歴史館寄席」。入場無料で、途中の出入り自由だから、都合が付くところちょっとだけでも覗いていただけたらありがたい。中身はこれから考えるが、歴史館の要望で、落語、小泉八雲怪談、出雲弁落語をそれぞれ配分する。まあ、今の落語教室のフルコースである。

 そこまで決めたところで安心してしまい、連絡を取ることもなく日を送っていた。それでもちょっと気の早い気もするが、年内に一度ごあいさつがてら下見しておこうかと思いついたのが11月。メールしたら、近いうちに来いとすぐに返事があった。館を訪ねて話をしてからというもの、にわかにことが動き始めた。ちっとも早くなんかなかったのである。

 一つには、3月23日で終わり、ではなく、年に3回、春夏秋の定席にしたい。もう一つは、稽古場として空いているときは使ってほしい、という申し出だった。願ってもない話というより、どこか話がうますぎる気がしたので、何か裏があるのでは勘ぐった。あった。なかなか粋な裏が。