人生の誰彼 27 そして、松江
先日、出雲市の実家の隣保内で不幸があり、自宅が『張場(はりば)』という香典の受付場所にあたったので手伝いに行ってきました。その昔、葬式がそれぞれの家で行われていたころの名残のようですが、近所の方々にとっては葬儀場まで行く手間が省けるので今でも便利な田舎の習わしです。
とはいえ隣保の人たちは朝から葬儀一切が終るまで張場に詰めて世話を焼かなくてはなりません。他に帳簿付け、喪家の留守番、葬儀場での受付の手伝いや『つぼかき』というお仕事もあります。つぼかきというのは、お墓の掃除と納骨の手伝いをする役目です。喪家の人たちが葬式を終えて帰ってくる時間を見越して、その1時間以上前からお墓に行ってお骨を迎える準備をして待っているのです。
この『つぼかき』という謎の言葉を調べようと検索しましたがほぼ全滅状態。唯一ヒットしたのが出雲市在住のSさんという方が書いているブログでした。そのブログによれば「昔は墓穴を掘ったのだが土葬がなくなってからはお墓の掃除と納骨の手伝いになった」とあります。はてSさんは出雲のどの辺りの方だろうかと読み進めていくうちに犬の散歩の写真を見つけたのですが、そこに写っている川と橋が実家の近くの風景だったのです。この近辺の方に違いありません。
ネットでたった一件しかなかったつぼかきに関する記事が同じ地域の方が書いたものならば、出雲市のごく限られた範囲にしか残っていない風習とも考えられます。きっと大昔はあちこちで行われていたつぼかきという役目や言葉自体も、住む人や町の姿の移り変わりによって次第に失われていったのかもしれません。
ところで、このSさんは実名でブログを書かれているのですが、この名前に見覚えがあったのでネットで調べるとやはり記憶どおりでした。テレビや映画の特撮ヒーロー作品等の脚本家の方だったのです。同性同名の方かとも思いましたが出身地が出雲であることや、ブログに脚本家として活躍されていた頃の記事が書かれていたので間違いありません。スーパー戦隊シリーズの脚本でつとに有名な先生が、まさかこんな身近に住んでいらっしゃるとは思いがけない大発見でした。
さてようやく3時過ぎに張場から解放され、松江への帰路に着きました。家庭の事情で帰郷されたSさんは多々ご苦労もあったようですが、いずれ私もこの辺鄙な田舎町に帰らねばならぬ日が来るであろうことを考えると億劫でなりません。