ニュース日記 945 「米1強」の終わりが「自民1強」を崩した

30代フリーター 与党が過半数割れしたのは裏金のせいだけか。

年金生活者 「自民1強」が崩れた背景には「米1強」の終わりがある。東西冷戦の終結が55年体制を崩壊させ、「1強」だった自民党を初めて下野させたように、アメリカの覇権の後退が、第2次安倍政権から始まった「ネオ55年体制」を突き崩した。

 自民党はアメリカに押しつけられた憲法の改正を党是としながら、現実の外交は一貫して親米的であり続けた。敗戦国としてアメリカに逆らえなかったからだけでなく、覇権国家のアメリカに安全保障をゆだねるのが戦後の復興・発展にとって最も合理的な選択と考えていたからだ。

東西冷戦が終わったとき、アメリカの一極支配が確立したように見えた。だが、ソ連という敵を失ったことで西側陣営の結束は緩み、その頭目だったアメリカは強いリーダーシップを発揮できる条件を奪われた。

 そうした政治的な変化は経済レベルではグローバリゼーションとして進行した。その波に乗って経済大国化した中国は軍事大国にもなり、世界でのアメリカの地位を低下させた。それは親米一辺倒の日本外交が危うくなることを意味した。

 しかし、自民党政権が選んだのは対米追随をやめることではなく、逆にそれを補強し、拡大することだった。だが、同盟をどれだけ強化しても、中国の軍拡を抑えるどころか、ますます促す恐れがある。緊張と不安定さが増し、日米同盟は以前のような東アジアの安定を担保する力を持ち得なくなった。

30代 アメリカに代わる覇権国家は誕生するのか。

年金 柄谷行人は『帝国の構造』の中で、近代史は自由主義的な段階と帝国主義的な段階が交互に入れ替わりながら進展し、ヘゲモニー国家(覇権国家)が存在するときに前者に、それが不在のときに後者になるというウォーラーステインの考えを紹介している。ヘゲモニー国家はこれまでオランダ、イギリス、アメリカと推移してきて、現在はそれが不在となり、次のヘゲモニー国家の座を争う帝国主義的な段階にあるとされる。

 では次にヘゲモニーを握るのはどの国なのか。柄谷は「それがヨーロッパや日本でないことは、確実です。人口から見ても、中国ないしインドということになります」と述べたあと、「が、このような推測は、世界資本主義が存続すると仮定した場合にのみ成り立ちます」と、それが条件付きであることをことわっている。

 その根拠として「中国やインドの経済発展そのものが、世界資本主義の終りをもたらす可能性」をあげる。中国やインドの産業発展は大規模なので、資源の払底、自然の破壊に帰結し、さらに農村を消滅させるので、産業資本主義に必須の新たな労働力=消費者の供給源を枯渇させる、と柄谷は予測する。

 だが、資本主義は利潤の源泉を狭めるように見えた脱炭素を逆に新しい利潤の源泉にしてしまったことに見られるように、資源の払底や自然破壊を制御する柔軟性を備えている。また農村が労働力=消費者の供給源となるのは産業資本主義の段階について言えることで、現在のポスト産業資本主義あるいは消費資本主義と呼ばれる段階には必ずしも当てはまらない。

30代 資本主義がこのまま存続するとして、次の覇権国家になるのはやはり中国だろう。

年金 それが現実のものになるには、この「帝国」の民主化が必須の条件となる。

 ヘゲモニー国家になるには、その国の通貨が現在の米ドルのように基軸通貨になる必要がある。中国やインドがヘゲモニー国家になるには、かつて基軸通貨が英ポンドから米ドルに替わったように、人民元ないしインドルピーが米ドルに取って代わらなければならない。

 基軸通貨は世界中に流通する通貨、世界中から信用される通貨でなければならない。その信用を裏づけるのは、通貨を発行する国に対する信用であり、その信用を担保する条件のひとつが統治の透明性だ。物事の決定の経緯が内外に公にされ、その説明がなされる必要がある。

 共産党独裁の今の中国はそれにはほど遠い。共産党のトップの野心や党内の権力闘争で事が決まるような国家の通貨はいつ暴落するかわからないという不安を他の諸国に抱かせる。通貨価値の安定という基軸通貨の要件を満たすことができない。

30代 中国が民主化する可能性はあるだろうか。

年金 民主制の国家=国民国家は17世紀のヨーロッパで神聖ローマ帝国の解体とともに誕生した主権国家が市民革命を経て到達した国家形態だ。平等を理念的な支えとする民主制は国民の等質性を前提としている。等質性は広大な国土では実現しにくい。諸民族、諸勢力で構成される帝国には不向きだ。

 中国が民主化するとしたら、「帝国」が解体し、いくつかの国民国家に分かれたり、州の独立性の強い連邦国家が生まれたりすることが道筋のひとつとして考えられる。つまり、台湾のような国家が大陸に誕生したり、アメリカのような連邦国家ができたりすることだ。たとえば、香港国、モンゴル国、ウイグル国、北京上海連邦といったぐあいに。もしかしたらその中のどれかが覇権国家になるかもしれない。