がらがら橋日記 にわか寄席
とある自治会が2度目の寄席に呼んでくれた。前回とても評判がよかった、と聞いていたので、会場に入って用意された座席を見たとき、そのあまりの少なさに意表を突かれる思いがした。初回ならともかく2回目のこれは激減が明らかで、前回言われるほど喜んでもらえてなかったのか、と残念に思った。思い当たる反省点もあったので、しばらくそれを反芻した。
いろんな場を経験した方がいい。熱かったり温かかったりが常だと思わない方がいい。冷たかったり寂しかったりも感じながら続けていけたらいいと思う。だから、会場の広さの方がうんと目立つ今回の寄席だって、子どもにもぼくにも大切な一回だ。
主催者が申し訳ないという表情で、
「いやあ、今日はほかに大きな行事が二つ重なってしまいまして…」
と頭をかきながら言う。
「いやいや、人数は関係ないですから」
と、ぼくは自身の信条に従って答えるのだが、一方で一回一回に現状を超えるための何かを用意して高座に臨んでいる子どもたちがかわいそうにも思えてしまうのだった。
子どもたちはありがたいことに、ぼくの煩悶などまったく関係なしにいつもどおり熱演した。休憩後はお客さんに席を移動してもらってまばらを解消し、小さいながらも客席をぎゅっと詰めた。寄席の場合、その言葉通り、客が「寄せ」合っていることが演者にとっても客にとっても大切なのだ。隣の人が笑っているから自分も笑うわけで。
「寄せ」効果によって子どもたちと観客との距離が物理的にも心理的にも縮まって、本当に人数は気にならなくなった。だから終わって別れ際にもう一度人数を詫びられたときには、ぼくは今度はまったく正直に「人数は関係ないですから」と言った。
その晩、保護者から連絡が入った。寄席の後、出演者家族が一緒に会場近くの祭りに行って茶席に入ったら、そこでお茶を点てていた女性が「あなたたち落語の子じゃない?」と声をかけてきた。一回目の寄席に行ったが2回目はこのイベントと重なってしまって行けなかったのだと言う。再会を喜んだ女性は茶菓子をどっさりくれ、子どもたちはそのお礼にと小咄をその場で披露し、茶席に居合わせたお客と10名ばかりでにわか寄席になったのだそうだ。
この物語の序章としてあの小人数があったのだと思った。そして、お礼に小咄を語ったという結末がぼくにじんわりとした余韻をもたらした。