ニュース日記 936 どこかに希望はないか

30代フリーター ロシアのウクライナ侵略、イスラエルのガザ攻撃、米中経済戦争と、いま世界で続く流血あるいは無血の戦争はどれも出口が見えない。どこかに希望はないのか。

年金生活者 ロシアのウクライナ侵略で世界中が恐れたのは核の使用だった。しかし、明らかになったのは、核のけた外れの破壊力がその使用を阻むという逆説が流血の戦争のもとでも成立するということだった。

30代 それを希望と言うなら、失望と同義語に聞こえる。この戦争では「今日のウクライナは明日の台湾」と台湾有事も懸念された。

年金 「今日のウクライナ」の惨状を見る限り、もし台湾がそれと同じような状態になったら、当の中国は「統一は失敗」と考えるはずだ。

 ロシアはウクライナを属国にし、自国と事実上「統一」するつもりだったのに、それができないまま2年半以上が過ぎた。台湾がそんなことになったら、統一はおろか、北京政権そのものが揺らぎだす。希望的観測を含めて言うなら、ウクライナ戦争は台湾有事の可能性を低めたと言える。

30代 その中国の軍用機が先月下旬、初めて日本の領空を侵犯した。何が狙いだったのか、近藤大介という中国ウオッチャーのジャーナリストが5つの可能な見方をあげ、そのひとつとして、「戦狼外交」路線を引っ込めた習近平体制への人民解放軍の不満があると指摘している。

近藤は「習近平政権と言えば、非友好国に対して狼のように吠えまくる『戦狼外交』で知られたが、昨今の経済失速に伴い、スマイル外交に転換を図っている。8月22日には、習近平主席が『鄧小平生誕120周年座談会』を主催し、鄧氏を『改革開放の総設計師』とほめ上げた」(JBpress、8月29日)と指摘し、「鄧小平氏はかつて、改革開放政策の『代償』として、人民解放軍を150万人も削減した。そのため、人民解放軍が習近平体制に警鐘を鳴らした」(同)ことが考えられるとしている。

年金 その通りだとしたら、習政権は本気で「スマイル外交」への転換を図っている可能性がある。不動産バブルの崩壊にともなう中国経済の低迷は、これまで後退させてきた鄧小平の「改革開放路線」を再び推し進めざるを得ないところまで習政権を追い込んでいるという見方が成り立つ。だとすれば、外資の導入は必須となり、「戦狼外交」は「スマイル外交」に切り替えざるを得ない。

 鄧小平が進めた「改革開放」は第2次産業を主要な対象としていた。その結果、中国は「世界の工場」と呼ばれるまでに発展した。これを今そのまま繰り返すことはできない。中国の資本主義は第3次産業を牽引車としない限り発展を望めない段階に達しているからだ。

 第3次産業を牽引車とする資本主義は第2次産業が中心の段階の資本主義にくらべると、より自由な消費者を必要とする。消費支出に占める選択的消費の割合が増大しているからだ。

 そうした自由な消費を活性化しない限り経済成長はあり得ないから、強権的な習政権といえども、国民の自由をある程度広げることを考えざるを得なくなる可能性がある。それは私たちが今の中国に希望を見出せる数少ない可能性のひとつだ。

30代 ガザのパレスチナ人は「希望」という言葉を使うこと自体が絶望を加速するような日々を送っている。

年金 アメリカはイスラエルに肩入れすることをやめない。両国は建国の歴史が似ているからだと言われている。元共同通信記者で中東政治の研究者の船津靖は「ピューリタンとシオニストは共にヨーロッパでの迫害を逃れ『約束の地』への脱出=『出エジプト』(Exodus)に人生と共同体の未来を賭けた入植者だった」と指摘したうえで、次のように書いている。

 「アメリカは先住民を追放し西へ西へと領土を拡張していった。現代イスラエルが国家領域を獲得する過程でパレスチナ・アラブ人の追放や難民化も起きた。北米『新大陸』の先住民もパレスチナ・アラブ人も、両国内では事実上、二級市民とされた。両国は共に先住民を『未開』『野蛮』と軽視し、自らの征服・入植事業を『文明』の名で正当化した。アメリカとイスラエルには聖書の物語を反復するかのような『約束の地』への入植・占領という建国の歴史がある」(「米イスラエル特別関係の形成と『約束の地』」)

 先住民を殺戮、排除したアメリカはその後、合衆国憲法に彼らの存在を位置づけ、他の国民と区別して優先的に処遇するアファーマティブ・アクションをとっている(常本照樹「海外の先住民族政策~日本との比較の視点~」から)

 他方、イスラエルはこれまで殺戮し、あるいは難民にしたパレスチナ人に対しては救済や賠償をするどころか、ガザでは今なお殺戮を続けている。アメリカが先住民にしたような処遇をパレスチナおよびパレスチナ人に対して実行する日が来る兆候はまったくない。しかし、今のままでは、命がけが日常であるような状態から逃れることはできないことをイスラエル国民は承知しているはずだ。それが表面化したのが、ハマスとの早期の停戦合意を求める今月初めの大規模デモだった。