北海道への旅、三度目 18
「フェリーが新潟からも出ててなあ、それだと夜中出港じゃないから楽だと思うんだけど。フェリー代も舞鶴からより安いし。ただ、新潟までだと車で11時間かかるけど、どう思う?」
まだ梅雨が明けないうちから夫の口から北海道旅行の話題が飛び出してくる。こっちは連休明けに起こした車庫での事故のことが頭にこびりついている。つい先日、壊れた塀を切って直してもらい、柱の曲がったカーポートを付け替え、傷跡は目の前からは消えた。けれども、心を抉った傷はまだまだ癒えそうにない。運転は、武道館往復と、子守りに玉湯に行く時のみ。その時でさえ、運転前に何度もアクセルとブレーキの場所を足で確認してからゆっくりと動き出すようにしている。どうしても孫を車に乗せて移動しなければならない場合は夫に頼み、私の運転する車には誰も乗せない。
「いやあ、新潟までは遠いよ。長く車に乗っているのは嫌だし、私が交代して運転する自信ないし」。そう答えてからまた一週間後くらい経って、「やっぱ、舞鶴からにしよう。ガソリン代のことを考えるとトントンだわ」と夫が言ってきた。
梅雨が明け、本格的な夏が到来。連日の猛暑の中、「そろそろフェリー予約したいけど、いつにする?」。夫の頭の中は北海道旅行モードに入っている。しかし、フェリーという言葉を耳にすると、キャンセルの電話をしたあの事故現場の情景が浮かんでくる。
「去年は囲碁大会と重なって、あっちを辞めたよね。今年は囲碁大会の後にしたら」と口では言うものの、心は全くついていっていない。
ぶつけられた時はワゴン車が私たちを守ってくれたとの思いで全く同じ形と色の車に替えた。が、その車で今度は自分がぶつけてしまった。車の自動制御装置に助けられたと思うようにしているが、やはり頭に浮かぶのは、「二度あることは三度ある」のことわざだ。
夫の気持ちをくじくわけにはいかない。これからも、夫は北海道旅行に向けての話をしかけてくるだろう。だが、私の傷跡はその時までに癒えるのだろうか。今年こそ、本当に三度目の北海道旅行が実現すればいいのだが…。(終わり)