北海道への旅、三度目 16

 自分が意識しないうちにことが起こってしまったという、得体のしれない恐怖感。高齢者がアクセルとブレーキを踏み間違えて事故を起こしたというニュースをたまに耳にする。不幸な場合には死傷者が出、訴訟事件に発展することも。私は全く同じことをしてしまったのだ。きっと、その人たちも、何が起きたのだろう、なぜこんな事態になったのだろうと、その時は何が何だか分からなかったのではないだろうか。あれが、車庫入れでなく道路を走行していた時だったら…。孫たちを乗せていたことを思うと、背筋が凍りつく。夜娘に連絡して孫たち二人の様子を尋ね、翌朝も何か変わったことはないかと電話を入れた。

「二人とも何ともないよ。ごめんね、私があれこれ頼むから、お母さんを混乱させたんじゃないかと思って」と娘は言ってくれるが、ああいうことを起こしたのは紛れもない私だ。雨で外に歩きにも出られず、同じようなことが頭の中を何度も何度も巡った。

 昼前に二男が連れ合いと息子を連れて顔を出した。昨日の夕方車屋さんが壊れた車を取りに来られたので、車庫にはテールライトカバーが欠けたカブが残り、支柱が凹んだカーポートの姿が露わになっている。床のセメントにはブレーキ痕が濃く刻まれ、ブロック塀が壊れている。その惨状を見て、息子は言った。「お袋、免許返せ」。返す言葉はない。もともと運転は好きでない。夫や息子を乗せることがあると、助手席でいらいらしている様子が伝わってくる。運転などしたくないから本心免許を返したい。ただ、武道館に行くことを辞めるわけにはいかなかった。今の健康を維持するのに、心がすっかり老化してしまうのを防ぐのに、足腰が立つ間は武道館で汗を流したい。運転は武道館通いだけにし、あとは夫に乗せてもらおう。そして、自分が運転する際は、絶対に人を乗せまいと決めた。

 翌日も心が落ち着かず、印刷したり、料理をしたり、何かをし続けていた。歩きに出ても全く疲れを感じない。何かにかき立てられるように歩き続けた。と、突然つるっと足が滑った。うん?この感覚は?あの何が起きたか分からなかった時に一瞬覚えた感覚が蘇る。急いで家に帰り、靴を脱いで裏返した。何だ、こりゃあ!