北海道への旅、三度目 14
朝、本当なら函館のホテルで目覚めているはずなのにと思いながら起き上がる。旅行日程が終わる予定日まで、こんな朝が続くのだろうか。
幸いというか、北海道に行けなくなったお陰で、孫たちが通う玉湯学園の運動会を見に行くことができた。1年生から9年生までの運動会で、2日にわたって行われる。1日目は天気に恵まれ、寛大が走ったり実歩が踊ったりする姿を見られたが、2日目は雨で延期、その日は休校になった。娘としては、事故に遭ったために私がフリーになり、子どもたちの面倒をみてもらえるとあって助かったことだろう。
その日、娘が早退して子どもたちを病院に連れて行ったあと、車屋さんのTさんが来られた。保険会社とやり取りをしている途中経過の報告を聞く。続いて、壊れた車は修理しようがなく廃車になるからと、代わりの車の話も進めることになった。Tさんが、「身体の方は大丈夫ですか」と聞かれ、「先日整形外科で診てもらいましたが、大丈夫でした」と夫が答える。そしたら、Tさんが、「あの壊れ方からして、お二人とも怪我がないのが不思議ですね」と、目を大きく見開いて言われる。それを聞いた夫がすかさず、「いや、後ろの車が突っ込んで車体が浮いたようになったから身体への衝撃が少なかったんじゃないですかね」と、JAFの方が言っていたことをさも自分の見立てのように話しているのがおかしかった。
「で、次の車のことですが…」と、Tさんが話し出すと、夫は、「前のと同じでいいよね、色も」と、私に同意を求める。どうしてそう簡単に言えるのだろう。「いや、ちょっと」と言葉を濁した。事故した車と同じ形なのは良いとしても、色もというのに抵抗があった。まだあの壊れた車体の映像が瞼に焼き付いているし、ぶつかった時の衝撃が蘇ってきたのだ。
返事は今すぐでなくていいとTさんが帰られた後、買い物をしに出た。歩きながらTさんの言葉が頭の中を巡る。「あの壊れ方からして…」ということは、あの車だったからこうして歩けているのかも。あの車が我が身を犠牲にして私たちを守ってくれたのか。そう思うと、シルバーの車が急に愛おしくなってきた。