北海道への旅、三度目 11
真っ暗な家の前にたどり着いた。助手席から降りると、車のことは夫に任せ、玄関の鍵を開けて中に入る。昼間の熱気が家中に籠っているので、一階から二階へと窓をみな開け放つ。そして、車が車庫に降ろされると、夫がJAFの方と話している間に、降ろせる荷物はどんどん玄関先に運んだ。それが終わるとJAFの運転手さんにあいさつをするや家の中に駆けこみ、パソコンを開いてホテルのキャンセルをする。間に合った。キャンセル料金なしだ。
ひと段落つき、「今夜は母さんも飲もうよ」と夫が言うので、クーラーボックスを開ける。まず、弁当を取り出し、次に缶ビール2本をテーブルの上に置く。缶ビールは、保冷用に2日前から冷蔵庫に入れていたし、冷凍していたペットボトルと一緒にしていたから冷えている。二人で乾杯してから弁当の蓋を開けると、ご飯もおかずもぐちゃぐちゃになっていた。
車がぶつかってから5時間余り。暑くて長い時間だった。それでも、怪我がなくて何よりだ。「JAFの人が言ってたけど、後ろの乗用車が突っ込んで少し浮いたようになったから、車が壊れた割に身体への衝撃が少なかったんじゃないかって」と夫が言った。それから、「来年、また同じコースを行くか」と続ける。「いや、まだ来年のことは…」と言葉を濁す。今になって怖くなってきたのだ。ぶつかった瞬間は何が起きたのか分からなかった。とにかく、夫に言われるがまま110番通報し、フェリーのキャンセルをし、警察が来てからは聞かれることに答え、あとはひたすら迎えの車を待っていた。そうか、浮いたのか。後ろにたくさん荷物を積んでいたのもクッションにもなったかもしれない。あれが、つい2か月前まで乗っていた軽乗用車だったらこんなでは済まなかったろう。
ふと、30年近く前の光景が浮かんできた。長男と二男を当時使っていた軽乗用車の後部座席に乗せ、信号待ちをしているところに車がぶつかってきたのだ。ルームミラーで、後ろの車の運転手が助手席を向いているのが見えた。スピードが落ちていたから二人の息子に怪我はなかったけど、今回のようなぶつかり方だったらと思うとぞっとする。
「じゃあ、義一のとこにでも行くか」と夫は言うが、しばらくは高速道路を走りたくない。