ニュース日記 926 代理戦争の過去と現在と未来 

 

30代フリーター ロシアのウクライナ侵略戦争は先の見えない膠着状態に陥っている。

年金生活者 約10年続いたベトナム戦争のように長引く可能性が高い。ふたつの戦争は大国の代理戦争という点で共通している。代理戦争は補給の相当部分を大国から受けるので、それだけ長く続けられる。

東西冷戦下のベトナム戦争で、北ベトナムおよび南ベトナム解放民族戦線が代理していたのはソ連であり、南ベトナムはアメリカを代理していた。アメリカは代理されるだけにとどまらず、戦争に直接介入する当事国でもあった。

 ロシアのウクライナ侵略戦争もまた、東西冷戦に準ずる世界規模の戦争である米中の覇権争いの代理戦争としてとらえることができる。ウクライナが代理しているのはアメリカなど西側諸国だ。他方の当事国であるロシアはどこも代理していないように見えるが、広い意味で中国を代理している。少なくとも中国はロシアをそのように扱い、軍事的、経済的な支援を続けている。

 大国どうしは世界規模の無血の戦争を戦い、それを代理する国は局地的な流血の戦争を戦うという構図はベトナムもウクライナも同じだ。

30代 東西冷戦が冷戦構造とも呼ばれたように、米中の覇権争いも世界の構造として定着しつつある。

年金 ロシアのウクライナ侵略はベトナム戦争以上に長くなる可能性すらある。ベトナム戦争でアメリカを敗退させた要因に相当するものがロシアには見当たらないからだ。

 アメリカはベトナム戦争で解放戦線のゲリラ戦に苦しめられた。正規軍である米軍は、正規軍を相手に戦争をするようにしかつくられていないのに、非正規軍と戦うことを強いられたからだ。住民にまぎれ、ジャングルの木々の間から突然、銃撃してくる敵に米軍兵士は恐怖し、疲弊し、病んだ。そして、もうひとつアメリカを追い詰めたのが、国内および世界に広がった反戦運動だ。

これに対し、今のロシアがウクライナで戦っている相手は正規軍であり、国内の反戦運動は強権によって抑え込まれている。プーチンは戦争を長期にわたって継続できる見通しを持っているはずだ。

30代 イスラエルとハマスの戦闘のほうはどうなんだ。

年金 イスラエルもハマスもどこかの代理をしているつもりはないだろうが、無血の世界戦争を戦う米中がそれぞれを自らの代理として利用している。

 しかし、この代理はロシアとウクライナの場合と違って、非対称な代理、いびつな代理となっている。代理戦争では代理する国が代理される国から補給を受けるのが標準状態だが、ハマスはイスラエルの圧倒的な軍事力に阻まれてどこからも補給を受けられないでいる。

 一方、イスラエルは代理しているアメリカから大量の補給を受け、それを使って過剰な攻撃をガザ地区に加えている。それは大規模な人道危機を引き起こし、アメリカの思惑を超えた、いわば「代理のし過ぎ」の状態となっている。

 この不均衡は、戦闘の継続を短縮させる要因として働くだろう。ロシアとウクライナとの間には見られなくなって久しい停戦への動きが、イスラエルとハマスの間には時折りあるのはそのあらわれだ。

30代 過去と現在のほかに、未来の代理戦争を想定するとしたら、台湾有事だろう。

年金 それはすでに無血の代理戦争として起きているという言い方もできる。なぜなら、台湾は世界の覇権をめぐって中国と無血の戦争を続けるアメリカから大量の武器の供与を受け、否応なしに米国の代理の役割を負わされているからだ。

30代 中国は武力による台湾統一を選択肢から外さず、アメリカは台湾有事のさいには「アメリカ軍の戦力の行使を排除しない」(バイデン)と表明している。

年金 そうした脅し合いは、台湾に対する相手の介入を抑えようとする牽制であると同時に、それだけにとどまらない意味を持っている。

 米中の覇権争いは、世界市場を主戦場とし、経済制裁の応酬をはじめとした貿易戦争などの形をとりながら展開されている。そのせめぎ合いを有利に運ぶための武器として台湾をめぐる威嚇の応酬が使われていると見ることができる。それを別の面から見れば、台湾は米中の無血の代理戦争の主戦場になっていると言うことができる。

 共産党との内戦に敗れた国民党が台湾に逃れて約75年になる。45年ほど続いた東西冷戦よりも長い時間が過ぎている。その間、常に有事が懸念され、そのシミュレーションもされてきた。それだけ台湾情勢は関係国によって管理されてきたとも言える。それは東西冷戦で核が両陣営によって管理されてきたことと似ている。危険物が危険の大きさゆえに慎重に扱われ、かえって安全を保つ結果をもたらすという逆説がそこにある。

 いってみれば台湾は長いミニ冷戦の戦場であり、いきなり熱い戦争が始まったウクライナとはそこが違う。もしウクライナが台湾のように関係国、とりわけ西側諸国から慎重に扱われていたら、ロシアの侵略はなかったかもしれない。そう考えると、すでに始まっている無血の台湾有事が流血の台湾有事を代替し、それを阻む力となっているという見方が成り立つ。