ニュース日記 925 それでも自民党の支持率がどこよりも高い理由 

 

30代フリーター 朝日新聞の世論調査(5月18、19日)によると、自民党を中心とした政権が続くのがよいか、自民党以外の政党による政権に代わるのがよいかとの質問に対し、「自民党中心」33%、「自民党以外」54%と、半分以上が政権交代を望んでいる。なのに、自民党に対抗する勢力として野党に「期待できる」は19%に過ぎず、「期待できない」が73%を占めている。

年金生活者 調査結果から推定できることのひとつは、自民党が下野によって「まとも」になることを国民は期待しているということだ。これまでも国民はそれを期待して自民党に大小のお灸を据えてきた。今回はいちばんきつい下野というお灸を据えようとしていると言うことができる。同様のお灸は1993年、2009年の政権交代で経験済みなので、55年体制時代と違い、野党による政権を国民はそれほど不安視していない。

30代 政権交代もお灸だとすれば、自民党が政権を失っても「自民党中心」の政治は続くということだ。

年金 今回の調査の政党支持率を見ると、自民24%に対し、野党第1党の立憲は6%と4分の1に過ぎない。これに維新、共産の支持率を足してもなお自民におよばない。裏金事件で戦後最大といっていいほどの国民の不信を買っているにもかかわらず、これだけの支持率があるのは、自民党と野党が、「政党」という同じ言葉でくくられながら、中身は性質の大きく異なる、非対称な存在であることを示唆している。

 それを言い換えれば、現在の日本の政党政治は、自民党あるいは自民党的なものを抜きには成り立たないということでもある。自民党が初めて下野して成立した細川連立政権は、自民党の中心人物だった小沢一郎らが党を割ってつくった新党(新生党)が支えた。2009年の自民党から民主党への政権交代もその小沢が立役者となった。

30代 自民党という政党のその「根の深さ」は何に由来しているんだ。

年金 天皇制の「根の深さ」と重ね合わせて考えたくなる。吉本隆明は、大和王権が統一国家をつくることができたのは、自分たちの神を既存の群立国家に拝ませる代わりに、自らはその群立国家の神を拝むという「交換」を通してだったと指摘した(「敗北の構造」)。

 自民党もまた日本国民と「交換」をした。戦後の復興期から高度経済成長期にかけて、自民党は国民の多数が従事していた第1次産業を保護する代わりに、国民には第2次産業の支え手になることを求めた。自らは農村の神を拝み、国民には工場の神を拝むことを求めた。その結果、「めいめいが混合してしまうということ」(「敗北の構造」)が起き、農村と工場の混合体が出現した。国民は自らの所属する企業に自らのルーツである村落共同体を見出し、高度経済成長を支えた。

30代 「交換」が成功したのは高度経済成長があったからでもあるだろう。だが、その時代はとうに過ぎた。そればかりか、高度経済成長にともなう農村の縮小とともに、天皇がその存在感をわずかずつであれ薄めてきたように、自民党もまたその地位を相対的に低下させてきた。

年金 たしかに天皇制も自民党もその基盤を農村に置いていたので、農村の縮小は「交換」が困難になることを意味する。それでも天皇制が「交換」を維持できているのは、それが宮中での農耕祭儀によって象徴化され、現実から切り離されたものになっているからだ。現実の農村が縮小あるいは消滅しても、その影響をゆるめることができる。

 おそらく自民党も「交換」の象徴化によって、その命脈を保っていると推定される。各種の農業保護政策は、実質的な効果だけでなく、象徴的な効果を発揮している。農業人口が減り、保護の対象は全産業の従事者のうちごくわずかなのに、国民全体がこの政策の恩恵をじかに受けているかのような意識を多くの国民が持っている。

 他方で、グローバリゼーションの進行とともに、農村と工場の混合体、言い換えれば村落共同体の代替物としての企業は、年功序列・終身雇用の解体を通して消滅しつつある。しかし、それでもなお正社員信仰は根強く、農村としての企業が象徴として残存していることを物語っている。自民党が長年続けてきた「交換」は現実的には細々としたものになりながら、それゆえにかえって象徴性を強め、この党を支えているということができる。

30代 自民党、天皇とくれば、アメリカに触れないわけにはいかない。この3者で今の日本の骨格をおおざっぱに素描できる。

年金 アメリカが日本国民と交換したのは、自らが昔から信仰する戦争の神と、戦後の日本人が信仰する平和の神だ。その結果、生まれたのが「戦力なき軍隊」と呼ばれる戦争と平和の混合体、自衛隊にほかならない。

 だが、覇権の後退を余儀なくされているアメリカは平和の神を拝む余裕を失いつつある。このままでは自らの支配力の源泉である「交換」が破綻する。それをつくろう論理が平和のための戦争準備だ。交換の実質を骨抜きにする象徴化がここにも見られ、それはアメリカの日本支配を延命させるだろう。