北海道への旅、三度目 8

 

 車から降りて来た男性は、蒼白な顔で携帯電話に向かって小声で話している。警察の人の質問が終わったので携帯電話を切って助手席に戻ろうとすると、前の車の女性が近づいてきた。前の車の後部も少し凹んでいる。「後ろの車にぶつけられまして」こちらから先に言った。「あら」と眉をひそめた女性と一緒に、うちの車の後ろを見に行く。「わあ、ひどいね」とつぶやき、「主人が入院してて、着替え持って行くところだったけど、今日はやめたわ」と言われる。この近辺の人らしい。「少しでも早いがいいと思って高速通ったんじゃけど、下道行けばよかったかな」。その人は言われるが、今の時点で私にはこうすればが浮かんでこない。前の車の人が引き返すので私も車に戻った。夫はスマホ相手に話している。保険会社にかけているようだ。「おい、フェリーのキャンセル」話の途中、夫に指示される。そうだ、もうフェリーに乗れないんだ。行程を印刷して挟んだファイルから連絡先を探し、電話をする。込み合っているようで、3回目にようやくつながった。事故に遭い、往復キャンセルする旨を話すと、行きは3割の手数料と1100円、帰りは1500円の手数料がかかり、それ以外を返金すると言われ、振込先を伝えた。宿泊先にも連絡をすると、じゃらんを通じての予約なので、じゃらんにキャンセルをするよう言われる。帰ったら、まず宿のキャンセルだ。

 そうこうしているうちに、パトカーがやってきた。高速道路専門の警察官が五人。そこから長い現場検証が始まる。前の車とうちの車を少しだけ移動させていたので、衝突した正確な位置を何度も確認される。事故の起きた時刻は、私の携帯電話の発信記録から2時15分くらいだろうと記録された。痛いところはないか確認され、必ず受診するよう言われる。警察官が着る上下薄いブルーが基調のつなぎの背中の部分が汗で濃い青に変色している。「おい、椅子出して」と夫が言うので、旅行用に買った折り畳み椅子を崩れた荷物の中から取り出す。聴取で話を聞かれる前の車の人と夫用2脚、後ろの人は若いからいいだろう。ついでにペットボトルを前後の車の人に渡す。積み込んだ荷物がこういう役に立つとは。

 高速道路が通行止めになり、側道も渋滞が続く。申し訳ない思いで一杯だが、致し方ない。